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オメガバース(男性妊娠)
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信二(α)
透(Ω)
社会的最下層に居るΩは身を潜めて暮らしている人が殆どだ。
最近はΩも普通の人として働く事を政府が対策として立てているのかいないのか分からないが、会社にΩの発情期休暇を取らせるようにしているらしい。
そんな中でもΩだとバレたくない人は発情期には強力な抑制剤を服用し、無理やり発情期の症状を無くしている人も居る。
僕はそんな人とは対照的に3ヶ月に1度来る発情期にあわせて1週間程休暇を貰っている。いわゆる発情期休暇と言うやつだ。
そんな僕も以前は強力な抑制剤を飲み発情期も仕事に行っていたのだが、社内でαの恋人が出来、それから恋人の希望もあり発情期休暇を取るようになった。
そんな彼とも、もう付き合い初めて2年近く経つ。時が経つのは早いなと最近しみじみと思う。
そんな矢先に起きたのが今回の事だった。
おかしいなと思い始めたのはごくごく最近の事。
何をしていても眠気と食欲に襲われる日々。仕事も段々遅れてきて溜まる一方だった。
不安が確信に変わったのはいつだろうか。
3ヶ月に1回訪れる発情期が来るべき月に来なかったのが原因な気がする。
産婦人科に男1人で行くのは気が引けたけど、行かないと何も始まらないので意を決して足を運んだ。
意外と男性Ω患者は少なくないらしく、僕1人が浮く事はなくほっと胸を撫で下ろす。
1時間程待って名前を呼ばれる。
一通りの検査が終わったあと人の優しそうな女医さんに「おめでとうございます」と笑顔で言われた。
僕にとっては何もおめでたく無いのだがそんな事目の前にいる女医さんは知らないので仕方無いだろう。
女医さんはが今からの検診やらの予定を説明してくれていたが1つも頭に入って来なかった。
ぼんやりとこれから信二さんとどうなるんだろうと思っていた。
信二さんは子供が出来たって言ったら喜んでくれるかな、 なんて考えが一瞬頭をよぎったがそれは無いだろうとすぐにその考えを頭から追いやる。
毎回ちゃんとピルは飲んだのか?と聞いてくるぐらいなので信二さんは子供は欲しくないんだろうと思っていたし、分かっていた。
信二さんと別れる決心をしなくてはと産婦人科を出る頃にはそれしかなかった。
でも、中絶と言う選択肢は最初からなかった。生まれる前から片親でお腹の子には申し訳ないが、1人でもこの子を育てて行こうと思った。
1番最後に彼としたのは、3ヶ月前の発情期だった。
抑制剤を飲んでいてもピルを飲まなければ妊娠するし、逆にピルを飲むだけで妊娠の可能性はぐんと下がる。
僕は発情期はいつも1番弱い抑制剤を飲み事後にアフターピルを飲んでいる。その時も例外ではなかったはず...。
あの時事が終わると信二さんはすぐにシャワーを浴びて慌ただしく帰り仕度をしていた。その音を聞きながら僕は眠気と戦っていた。
信二さんは慌ただしく帰る日もあれば、朝まで一緒に居てゆっくり2人で帰る日もある。
彼は発情期以外に僕を抱く事を嫌う。それは何故だか分からないけど...。
だから忙しくてもそうじゃなくても僕の発情期に合わせて時間を作る。その日は多分とても忙しかったのだろう。彼と一緒に居られたのは2時間もなかった気がする。
帰り仕度を終えた彼は僕にピルを飲み忘れるなよと言うと帰ってしまった。
その時僕はもう半分夢の中でピルを飲んだのか覚えていなかった。
3ヶ月前の事を思い出しながら帰路に着いていた僕の顔は自分でも分かるぐらい血の気がサァっと引いていた。
いくら眠くてもピルを飲み忘れるなんて、そんな失態今までした事なかったのに...。
その日は信二さんに何て話したら良いかで頭がいっぱいだった。
「信二さん、ちょっと話があるんですけど」
昼休みに信二さんの仕事が終わったのを見計らって僕は声を掛ける。
「何? 仕事の事?」
「いえ、そうじゃないんですけど...」
僕が言いよどんでいると信二さんは話が長くなると思ったのか、昼飯でもどう?と言いながら席を立った。
僕は、はいと返信をすると信二さんについて歩いた。
「で、話って?」
手近かな店に入って注文を終えると信二さんから尋ねてきた。
「あ、えっと...」
声を掛けたのは良いがどうやって何を伝えたら良いのかまだ考えが纏まっていなかった。たとえ纏まっていたとしても、なかなか言い出せないだろうけど。
「そう言えば、前回はごめんね。大丈夫だった? どうしても仕事で手が離せなくってね」
前回とは発情期の事だろう。発情期は来なかったけど、信二さんに心配かけまいと、いつもと同じように発情期休暇をとった。
幸運な事に信二さんはどうしても手放せない仕事があったらしく、メールが届いただけで着信すらなかった。
僕はそのメールに大丈夫ですとだけ返信した覚えがある。
その休暇を使って産婦人科に行った。
「あ、大丈夫です。家でじっとしてたんで」
僕がずっと黙りを決め込んでいたので、耐えきれなくなったのだろう。信二さんが申し訳なさそうにしていた。
2人の空間だけしんとした空気が流れる。
沈黙に耐えきれなくなってきた頃に、頼んでいた料理が目の前に運んでこられた。
お互いの料理を食べる音とお店の賑やかな音が響く。
それが更に2人のしんとした空気を強調させていた。
「...」
お互いのお皿が空になったのを見計らって僕は口を開いた。
「ん?」
信二さんには僕の声が聞こえなかったのか、丁度こちらを見てきた彼と目があった。
「僕と別れて下さい」
「...」
信二さんの動きが止まった。驚いた顔をしていたが、すぐにいつもの人当たりの良い表情に戻り一言何で?と言った。
やっとの事で絞り出したようなカラカラの声だった。
その問に対して僕は何も答えられなかった。
「はぁ、その話は今夜ゆっくり聞こう。夜開けといてくれ」
また黙りを決め込んだ僕に溜息を付き、チラリと時計を見やる。
信二さんが席を立ったのにつられ、僕も席を立つ。
午後の仕事には全く手が付かなかった。しょうがないと思いつつ今日終わらなかった仕事は明日に回す事にする。
特別急ぎの要件もなかったので良いだろうと自分に言い聞かせ、定時であがる。
いつも2人で会うのはホテルだった。
だけど今日は違うみたいで信二さんの家に連れて行かれた。
ソファーに座る様に促され、暫くすると両手にマグカップを持ち現れた信二さんは僕の隣に座る。
片方のマグカップを渡され、僕はありがとうございますと小さくお礼を言った。
信二さんから受け取ったカップの中身は珈琲だった。
良い香りが部屋中に広がる。
「で、何で急に別れようと思ったの?」
信二さんの問いに答えられず僕はマグカップに視線を落とす。
「透、言ってくれないと分からないよ。俺、何か悪い事したかな?」
いつまで経っても喋ろうとしない僕に信二さんは優しく声を掛けてくれる。
「...信二さんは、僕の事嫌いになるから」
それだけ言うのがやっとだった。
「何でそう思うの?」
「僕、信二さんとの約束、守れなかったんです」
「うん、どんな約束?」
信二さんは根気強く優しく問いかけてくれる。
僕が話しやすい様に。
「ピル。この前ピル飲み忘れたんです」
一旦言葉を切る。
「妊娠してました」
そう言った瞬間信二さんの動きが止まった気がする。
気がするだけで実際は何にもなかったのかもしなれない。
僕の視線はずっと珈琲に落とされたまま。信二さんの方を向くのが、信二さんの顔を見るのか怖かった。
「僕がピルを飲み忘れたから。信二さんは子供欲しくないんですよね? 子供が出来た僕なんてお荷物でしょ? 嫌ですよね? だから、だから別れて下さい」
一言言ってしまうと後は溢れるように言葉が出てきた。
零れそうになる程溜まった涙を落ちる前に服の袖で雑に拭う。泣いちゃ駄目だと心のどこかで思っていた。
言いたい事を言った僕は口を結んだ。
ほんの数秒間しかなかっただろうが、沈黙がいたたまれなくなる。
「今の話は、本当なのか?」
口を開いたのは信二さんだった。
「...はい」
相変わらず僕は信二さんの顔を見る事が出来ず、視線を落としたままだ。
はぁ、と隣で大きな溜息が聞こえる。
自然とマグカップを持つ手に力が入るのが自分でも分かった。
「何でお前は、いつもそうやって1人で抱え込むかな〜」
少し呆れた様な声が聞こえた後、優しく肩を抱かれた。
「...信二さん?」
突然の事で僕の思考は追いついてなかった。
「そんな事で俺がお前の事嫌いになる訳無いだろう? そもそもいつ俺が子供はいらないとか言ったよ? 子供出来たとか嬉しい事言われて別れられる訳無いだろ?」
信二さんの言葉に吃驚して思わず顔を上げる。
「透、順番間違っちゃったけど、俺と結婚してくれる?」
少し恥ずかしそうに言った信二さんと目が合い、僕は今凄く幸せだと思った。
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