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寂しいが言えない-1
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南 智(みなみ さとし)Dom
山野 那月(やまの なつき)sub
今日は早く帰れそうだから一緒にご飯食べよう。
そんなメールに気付いたのは仕事が一段落終わりちょっと休憩にと思って携帯を覗いた時だった。
久しぶりに智とご飯が食べると分かるとなるべく早く帰ろうと必死に仕事を終わらせる。
会社から出て、今から帰るよと、智にメールをしようと携帯を開くと智から、今帰ったからご飯作って待ってるとメールが入っていた。
「ただいま〜」
「...」
おかえり。と、声が掛かるはずなのに何の返事もなく、あれ、どうしたんだろ?と思いながら靴を脱ぐ。
無意識的に携帯で現在の時刻を確認し、まだ門限まで猶予があったことにほっと胸を撫で下ろす。
無言は怒っている時のサインなので、門限をまた破ってしまったのかと焦ったが、そうでないらしい。
なら何故彼が怒っているのか、検討がつかない。
何か怒らせるようなことをしたかと考えながらリビングに行くと、1人、椅子に座って険しい顔をしている彼が居た。
隠す気もないのだろう、glareがだだ漏れだ。
「那月、座って」
やっと智が発した言葉は端的なもので、命令でこそないが、それには有無を言わせない力が込められている。
「これ、見覚えあるよね?」
そう言った智は机の上に飲み終わった抑制剤のゴミとまだ手が付けられてない抑制剤を無造作に置いた。
見覚えもなにも、それらは俺が智に隠れて飲んでいた抑制剤のゴミとこれから飲むであろう抑制剤だった。
何で、智がそれを持っているのか。
智にバレないようにゴミは蓋付きのゴミ箱に纏めて捨て、抑制剤も分からないようなとこに隠していたのに。
「何でって顔してるけど、那月が隠しそうなところなんてすぐ分かるよ」
「あ、あの...」
「言い訳は聞きたくないから」
俺が言おうとした言葉を遮って智はいつもよりずっと強い口調で言った。
最近、智の仕事が忙しくろくに会えない日が続いていた。
智もその事を心配して、連絡は頻繁に取るようにしてくれていたし、何かあったらすぐに言うように言われていた。
だけど俺はどうしても智に「寂しい」と言うことが出来ずにモヤモヤした気持ちを、抑制剤を飲んで誤魔化していた。
仕事が忙しいのは智のせいではなく、俺が何を言ってもただ智を困らせる我儘になってしまうと思ったから、智の前ではいい子で居たいから、気付けば抑制剤を飲んでやり過ごす毎日だった。
智にバレるのも時間の問題と思いつつも智に打ち明ける事が出来ずに今日までズルズルと抑制剤を飲み続けていたら、とうとう見つかってしまった。
「俺の何がいけなかった?」
智の顔を見る事が出来ずにずっと俯いていた。
智にそう言われ、ふと顔を上げると凄く悲しそうな顔をした智がいた。
「...智は、悪くない」
そう言うのがやっとだった。
これは俺の気持ちの問題で、智は何も悪くない。
「...俺が、我慢出来なかっただけ」
智の顔が見れない。
俯いたまま、何も言えずに智の次の言葉を待つ。
暫くどっちも黙ったまま喋ろうとせず静寂が訪れた。
「俺ってそんなに信用できないかな...」
智がぼそっと言葉を漏らす。
聞こえるか聞こえないか分からないぐらいの小さな声で発せられた智の言葉は俺の心に強く刺さった。
智に迷惑をかけたくなくて、我儘だと思われたくなくて、取っていた行動が結果的に智を傷付けることになってしまっていたことにようやく気付いた。
「っ、違う!!俺がちゃんと言えなかったから、...ごめ、ん」
智に迷惑をかけてしまった。智を傷付けてしまった。
謝らなくちゃ、俺がちゃんと言えなかったから。
我慢出来なかったから、俺が悪いんだから、ちゃんと、ちゃんと謝らなくちゃ。
「...っう、ごめん、ごめんね、俺がちゃんと言えなかったから、智のこと、傷付けちゃった、俺がちゃんと我慢出来なかったから、俺はダメなsubだから、ごめん、ごめんね」
言葉よりも先に涙が溢れてしまって、泣いちゃ駄目だと思いつつも、言葉を発しようとすると自然に涙も出てしまって、ちゃんと智に伝わってるか分からないけど、ちゃんと言わなくちゃと思って涙を手で拭いながら、何とか最後まで言葉を発することが出来た。
「こんな、ダメダメなsubは嫌だよね、俺、もっと智に相応しいsubになれるように頑張るから、だから、見捨てないで」
もう何がなんだか分からなくて智の顔もまともに見えないぐらい涙で目の前が歪んで顔もぐっちゃになって、手で涙を拭いながら、ごめん、ごめんね、とひたすら繰り返していた。
智はとても簡単な約束すら守れない俺をどう思っているのだろうか、俺なんかよりもっと良いsubは沢山居る。
そんな中でも智は俺を選んでくれたんだから、もっと智の理想のsubになれるように頑張らなくちゃ、嫌われないようにしなくちゃ、そう思ってたのに...
泣いちゃ駄目だって思うのに、泣いてたって智の理想のsubにはなれないのに、今回の事は全部俺が悪いのに、智に迷惑かけちゃいけないのに...
考えれば考えるほど涙が出てくる...
もう何も考えたくない...
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