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もう離れられなくて#5
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氏原先生の机の上には2つの包みがある。
1つは、もちろん氏原先生のお弁当。
そしてもう1つは、恐らくもうすぐこの部屋に入ってくるであろうあの気の抜けた足音の主のものだ。
すぱーん、すぱーん
サンダルと床が擦れる間抜けな音が、
徐々に保健室へと近づいてくる。
僕が気づいたときには、氏原先生はもう既に彼の気配を感じていたとでも言うように
自分のものではないお弁当の袋をすぐ隣の机に移動させていた。
「おー、お前もいたのか。」
あくびをしながら入ってくるそいつの姿は、
やっぱりとてもじゃないけど教師とは思えない。
生徒の前で気を抜きすぎだろう。
ただ、今の僕はそれが迷惑だとは思っていない。
…嬉しいとも思ってないけどね!
「相変わらずお前保健室大好きだな。」
ニヤリと意地悪く笑い、弁当の置かれた席に当たり前のように座る僕の元・天敵。
保健室大好きとか、お前にだけは言われたくない。
授業の空き時間に、時間を見つけては保健室に入り浸っているくせに。
どうして他の生徒や教師が不審がらないのかが
不思議でたまらない。
「あんたも保健室大好きじゃん。」
「あ?俺は保健室が好きな訳じゃねーの。
保健室にいる奴に用があんの。」
屁理屈の上手い大人に、僕の反論はいとも簡単に論破されてしまう。
これ以上突っかかるのは、ただの惚気になりそうな気がしてたまらないので
もう放っておくことにした。
やはり教室とは違い、気を使わずに過ごせる空間。
氏原先生の纏う空気は優しくて大好き。
高木センセイ1人の空気感はなんとなく苦手だけど、
氏原先生と2人、重なれば
陽だまりのような心地良い暖かさを傍にいる僕も受け取ることができる。
1人と2人ではこんなにも違う。
誰が見てもきっと、氏原先生とこいつは
隣同士に並んでいるのが1番正しい形であると納得するに違いない。
お似合いなんだ。
空気感からして既に。
僕とは違う。
僕と奏楽さんとは違う。
奏楽さんは僕にはもったいない。
僕の劣等感は消えない。
誰と勝負をしているわけでもないのに、
常に敗北感を抱く僕はいつも不安に囚われている。
そんな時に、
「今日みたいに教室にいられる時間が
これからも、少しずつ増えていくといいね。」
氏原先生がそう言って微笑んでくれると
幾分か心が落ち着く。
隣で弁当を開けていた奴も笑う。
さっきまでの意地悪な笑みじゃなくて
悔しいけどありえない位かっこいい、
100%イケメンで教師らしい笑顔。
「へぇ。兎毛成頑張ってんだ?…偉いな。」
「う…うるさいなぁ、もう!」
自分を認めてくれる
自分を少しでも褒めてくれる存在に、
僕は毎日助けられている。
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