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もう離れられなくて#58
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僕の言い訳めいた説明に、奏楽さんは
”そうか。”
とそれだけ。
やっぱり、僕に興味とか少しもないんだろうな。
僕ばかりが執着してしまって、僕ばかりがこんなに好きで
奏楽さんは迷惑していないだろうか。
奏楽さんばかりに依存しないように、他に誰か作ったりとか…
した方がいいのかなって。
一瞬そんな大人な思考が頭をよぎって、ブンブンと頭を振った。
よくない、そんなの良くないぞ。
そもそもモテない。
相手がいないんじゃ話にもならないが。
”奏楽さん…、奏楽さんの事お母さんに話したらバカにされました”
涙を流す顔文字をつけて、送信。
構ってほしかったわけじゃなく、
奏楽さんを悪く言いたいわけでもなく
奏楽さんはこんなに格好良いのに
こんなに優しくて、こんなに立派でこんなにいい所がたくさんあるのに、
バカにされるなんて許せませんよねっていう愚痴、みたいな。
僕にとって、奏楽さんの話をできる相手は
奏楽さん本人しかいないから。
”そうなのか?”
”なんで?”
僕だってわからないですよ。
なんで、あんなこと言われる必要があったんですかね。
人それぞれに、恋の形はあるのに。
僕の形は、偉大な奏楽さんの不安を少しでも軽減させたい
奏楽さんにいつか迷惑をかけるであろうことは絶対にしたくない
そんな形をしているのに。
お母さんの人生で培ってきた普通を押し付けられては困る。
僕が返信に困っていると、またスマホが震えた。
画面いっぱいにバラの花が広がる。
「はい…っ。」
『大丈夫か?どうしたんだ。』
奏楽さんの小さく掠れた声が、痛かった。
心の調子が良くなくて、何も手につかないくらい切羽詰まっていて
僕を呼び出した奏楽さん。
きっと今もまた本当は戦わなきゃいけない事が待っていて、
なのにその手を止めて僕の相手をしなきゃいけなくなった奏楽さん。
ごめんなさいって、何度も何度も心の中で謝った。
言葉にして謝っても、奏楽さんはまた
お前は悪くないって言っちゃうんだもん。
僕が全部いけないのに。
奏楽さんは優しいから、謝るだけでも迷惑をかけてしまうようで。
「奏楽さんの話してたら、苗字なんて言うのって言われて…。」
これ、別に教えてほしいってわけじゃありませんからね。
いやならいいです、聞きたいわけじゃないので。
僕なんかが聞いていいことだと、思ってないので。
「答えれなかったら、あうとーーって言われました…。」
『そうだったのか。…俺言ったことなかったっけ?』
ないですよ。
聞かない僕がいけなかったかもしれませんが、
奏楽さんの話してくれた事、打ち込んでくれたメッセージは一言一句覚えている僕なので
教えてもらったこと、ありません。
「知らない…です…。」
『そうだっけ。普通だよ、普通。』
そう言って奏楽さんはいつかのように、
漢字まで丁寧にちゃんと教えてくれた。
よく読み違われる事とか、
違うしって思いながらも慣れすぎて諦めてた事とか。
また僕の知らない奏楽さんを、たくさん教えてくれた。
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