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となりの出会い
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俺とアイツの最初の出会いは、生まれた病院でだ。
俺とアイツは同じ日に生まれた男児で、隣同士の保育器に入れられ、何も知らない無垢な頃から二人一緒にあうあうと鳴いていたのがきっかけだ。
出産日が同じで更に病院のベッドが隣同士だった母親達が、仲良くなるのは当然の帰結だっただろう。
そして子供ができるからと買った引越し先がアイツの家の隣だったのだから、もうどこまでも俺達はお隣さんだ。
幼少の頃から二人一緒くたに育てられ、当たり前に手を取り合い同じ幼稚園に入った。
幼稚園のお絵かきのテーマが家族であれば俺達は互いの家族も含めて描き、おかしな子たちだと首を傾げられたものだ。
それがおかしな事だと知らぬままに俺達は家でも幼稚園でもいつも一緒に過ごして笑いあっていた。
そんなある日の事。
俺達は好きな人というテーマで、示し合わせたわけでもなく互いの絵を描いた。
俺は心底アイツが一番好きだったのだから、子供ながらに丁寧に気持ちを込めて描いたのだ。
先生は困ったように笑い、家族や好きな異性を描いている他の子達はやはり変だと言った。俺はそれでもよかったのだ。俺の気持ちはちっとも変ではないと譲る気はなかった。
だが、アイツは違った。
大きな瞳にうるりと大粒の露を溜めて、絵を握りしめてポテポテと走り去ってしまった。
トイレの個室に引きこもり、先生が謝りながら呼んでもおやつの時間になっても、しくしくとそれは悲しそうに返事もしないで泣いていた。
俺は我慢ならなくて、アイツの好きなおやつをアイツと自分の分を抱え、一人で辛気臭いトイレに襲撃をかけた。
だって、とても寂しかったのだ。
沢山の園児達や先生とおやつを食べようとしても、隣が空いているのがたまらなく寂しかったのだ。
ガラリと引き戸を開けて、トイレの扉をコンコンとノックした。
「たま、たま、なんで泣く?おやつたべよ、おれといっしょ」
「ひっぐ…い、いっしょだめ…!」
「な、なんでっ」
涙声でゴロゴロしたアイツの否定の言葉に、俺は驚いてガタガタと扉を揺すった。
おやつはタイルに落ちてしまって、包装紙がなければ無残なことだったろう。
アイツはショックを受ける俺の声を聞いて扉の前に張り付いたのか、ガンッと痛そうな音がして俺達は扉をサンドイッチにする。
「だって、だってへっ変ってゆわれる…っおれがぽちのこと好きなの、変ってゆわれるっ」
「変ちがう!おれもたまのこと好き、おれは変って思わない!パパとママも、たまのパパとママも、思わない!」
「おっ思わない…?」
「思わない、おれがほ、ほしょー?する」
知ったばかりの語彙を駆使して語りかける。
扉に両手で丸く筒を作って、メガホンのようにして気持ちを伝えた。
俺はアイツが大好きで、アイツが俺を大好きならば、どうして扉の向こうにいるのかと腹が立って仕方がなかった。
ややあって、アイツは鍵を開けてそーっと顔を覗かせた。
泣きすぎて目元が腫れ、真っ赤なアイツの額は小さなたんこぶができていた。やはり扉にタックルしたのだ。
俺はアイツの手からくしゃくしゃになっている俺の似顔絵をひったくって、自分の持っていたアイツの似顔絵を勝手に握らせる。
「おれの好き、持ってて?たまの好き、おれが持っとく。そんで大人になったら、けっこんしよう」
「けっこん?」
「うん。パパとママは、ずっといっしょにいたいからけっこんしたんだって。そしたらだれも、変だってゆえないんだよ?」
「おれのとなり、ずっとたまがいい」
「!お、おれも!おれのとなり、ずっとぽちがいい!けっこん、する!」
そうして俺達は、トイレで将来を誓い合うというミラクル園児になってしまった。
落としたおやつは、勿論トイレで食べたのだ。
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