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魔王、勇者に堕ちる
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「俺のものになれ」
それは俺の中の独占欲をこれ以上なくカタチにした言葉である。
俺のもの。
俺だけのもの。
俺だけを見て、俺だけを思う。
そんな存在になれ。
それは本能でもあったし、願いでもあった。
それでも。
この男が。
俺一人消炭にすることも造作ないこの魔王という男が。
俺に従った時点で。
俺はこの男の一番にはなれないのだと。
そんなことに、気付いてしまったのだ。
<***>
男を脅しながらやってきた魔王城は、余りにも立派で、ああ、やはりコイツは魔王なんだと思い知らされる。
その、雷を背にそびえる黒城の中に入っていくほど、よく分からない感情が膨らんでいく。
高揚感と諦観。
そんな相反した感情。
俺にはもう制御できない領域。
これ以上なく求めているのに。
それはもう叶いっこないんだと、何かが囁いて(ささやいて)いる気がした。
「は・・・魔王様、その者は・・・」
城の中、部屋の扉の前で、男の部下らしい異形の者が俺を見て言う。
それに対し男は小さく。
「ここから少しの間離れておいてくれないか。俺が良いというまで。他の者も同じだ。伝えておいてもらえるか」
そう言う顔が、まるで慈しむようで。
魔王なのに。
心の底から、部下を大切に思っていることが伺い知れて。
それが俺の中の焦燥感(しょうそうかん)を加速させる。
駄目だと分かっているのに。
それでも一刻も早く、俺だけで塗り潰したい。
そんな風に思うのだ。
「は、はい・・・貴方様の御心のままに・・・」
恭しく(うやうやしく)去っていく部下を見て、俺は言う。
「別に他の部下がいてもいいだけどなあ。部下の目の前で人間の男に犯される魔王・・・いいじゃん」
それは、多分嫉妬だ。
俺はぐずっているだけなのだ。
手に入らない玩具の前で駄々をこねる子供のように。
でももう。
それでもいい。
部下のためでも、俺のもとに這いつくばる姿が見られるのなら。
男の心底軽蔑する顔を、今から歪ませられると思うと。
自然と笑みがこぼれた。
「ほら、自分で服脱いで、ベッドに横になって」
魔王に命令できるのは、今俺しかいない。
<***>
どれほど理性では俺を否定できても、男はやはり魔王で、悪魔の頂点であることに変わりはなかった。
本能的に淫靡なのだ。
俺の手で身悶えしながら、快感を快感と受け取っている。
そのことが俺を悦ばせる。
身体のつくりは人間の男と同じで、でもそれで俺が萎えることはなく。
今まで男なんて抱いたこともないし、好意を抱いたこともなかったのに。
それでも。
俺を『殺さないように』力を精一杯制御して、そっちに意識を全部持っていかれているのをいいことに、気のゆくまま身体を弄りまわす。
身体を勝手にされていることも、身動きが取れないことも、そして本能的に善がっていることも。
それら全てが、この男に屈辱となって襲い掛かる。
「イイ身体してるねえ。最初見た時から思ったけど。それにその髪、女みたいに綺麗だ」
黒い、艶のある髪。
撫でると絹のように滑らかで、俺の指をすり抜けていく。
でも。
女みたいに。
そう言ったその一瞬。
男の顔が曇った気がしたのは。
俺の思い上がりだろうか。
<***>
とりあえず、男が我慢できなくなるほど溺れる姿が見たいと思って、男の魔王らしく立派なソレを扱いていたのだけれど。
それに触れるたびに響く、威厳のない嬌声を聞くたびに、俺の中に黒い感情が生まれる。
そして思いつく。
悪魔のような考えが。
「イかせて下さいっておねだりしてみてよ」
「っ~!!!」
唇を噛みしめ、俺を睨むその眼を見た時。
ああ、これだ。
そう思った。
俺だけを映す、それでいて濁りのない目。
その視界に俺しか映っていない。
その世界に俺しかいない。
それがこの上なく、嬉しかった。
それでも。
「い、イかせて・・・くれ・・・」
恥も外聞もかなぐり捨てて、恥辱に唇を震わせながら、それでも。
その言葉を、敵である俺に言ったのだから。
俺ではなく、仲間のために。
コイツがここまでする存在に、俺はなれないんだと思うと。
もう、狂ってしまえばいいと。
そんなことを思ったのだ。
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