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淫魔くん、初めてのごはん
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「…ええと、玄関…からは入っちゃダメ…なんだよね…。…空間魔法、使えるかな…」
あるマンションの部屋のドアの前で、一人のインキュバスが頭を捻らせていた。
彼の名前はルイ。
小さな体に、控えめながらも生えている黒い二本のツノと長い尻尾。背中にはこれもまた小さいが、羽のようなものもある。
れっきとしたインキュバスで、悪魔の仲間だ。
今ルイは、目の前の部屋の主の生気を頂くために部屋への侵入を試みているのだった。
ルイはインキュバスだが、他のインキュバスたちとは違い、人間の男性の精を摂取しなければ、魔力が蓄えられない体質――いわゆるサキュバスのような体だった。
それは突然変異か何かで起こったことらしいが、詳しいことは何も分かっていない。ごく稀に、そういう個体が生まれるらしい。
男であるのにも関わらずサキュバスと同じ体に、最初こそは戸惑ったものの魔力がないということ以外は精を摂取しなくても特に異常はなく、毎日を穏やかに過ごしていた。
インキュバスとしては一人前とは言えないが、それでも自らも男であるのに男性の精を摂取するのはいささか抵抗があった。
両親にも何も言われなったために、一生こんな穏やかに過ごすのもいいかな、と考えていた矢先に、事件が起こる。
ルイに長年付き添ってきた使い魔が、突然魔力を失い倒れたのだ。
ルイの家系は代々、自分の誕生祝に使い魔を一匹貰うことになっている。永遠に切れることのない契約を結び、良きパートナーとして一生を共に過ごす。
唯一の存在であった使い魔の窮地に、ルイは焦りとても悲しんだが、原因はまさかの自分にあったのだ。
そもそも使い魔とは、主人からの精気の供給により魔力を保つものである。
これまでルイは一度も精気を供給したことがないため、使い魔が弱るのも仕方がないことだった。
大好きな使い魔がこのまま消えてしまうのは嫌なので、ルイは一生懸命悩んだ結果、こうして人間界に降り立ったのだ。
「…うぅ…呪文ってあるんだっけ…?お父さんが言ってたのだと、適当にお願いしてれば入れるみたいなことだったけど…」
覚悟は決めたものの、こうして部屋の前でグズグズすること早20分。
一刻も早く使い魔を助けるためにはこうしている時間もないのだが、いかんせん初めてなもので仕様が分からない。
部屋の表札には「玉木」と書いてあった。
この玉木という男を選んだのはルイではなく使い魔だった。右も左も分からず、ただ優しい人がいいという希望があったルイに、ぴったりだという。
悪魔のくせに自分に自信がなく、温厚で少しヘタレなルイ。そんな自分にぴったりなのだからさぞ優しい人だろうと思い込んでいた。
「…よし!…や、やるぞ…っ!」
ぐ、とガッツポーズをしたあと、部屋に向かって両手を突き出す。
そして、開け開け~と考えていると突然目の前にぐにゃりと歪みができた。
恐る恐るその歪みに指先を伸ばすと、強い力で引っ張られあっという間に空間に吸い込まれた。
何を考える暇もないまま、気が付くとルイは家の中にいた。きょろきょろと周りを見渡すと、生活感のないシンプルな部屋にいることが分かる。
(玉木さんのお部屋、かなあ?…ぼく、成功した…?!)
思わず両手を見つめ、ぐっぱーぐっぱーしてみる。魔力がそこまで消えていたわけじゃなくて、ほっとする。
「…おい、お前。…今、どっから現れた」
「…へ、」
嬉しくて顔を綻ばせるルイの耳に聞こえてきた、低い声。
ルイは、声のした方に顔を向ける。
そこに――自分の下に――いた、部屋の主であろう男の顔を見たとたん、ルイは震えあがった。
少し長めの金髪に、切れ長の目。眉間にはしわが刻み込まれており、強面ではあるが美形の部類に入る男が鋭い眼光でルイを見上げていたのだ。
「あ、ああああの…っ」
自分がその男――玉木に馬乗りになっているのだと気付き、慌てて飛び降りた。そして、ベッドの下にちょこんと正座する。
玉木は、上半身を起き上がらせ警戒したようにルイを睨みつける。
(ど、どどどどうしよう!すっごく怖いよぉ…!優しい人じゃない、じゃん…!お父さんたすけて…っ!)
半べそをかきながら、ルイは震える手をぎゅっと握りしめた。
玉木をちらっと覗き見ては、肩をビクつかせる。
(そ、そうだ…確か、人のおうちに入るときに言う言葉があったんだった…!…ええと、たしか…)
「お、おじゃまします…?」
「…はぁ?お邪魔します、じゃねえよ。なんなんだよお前、一体誰なんだ。どうやって部屋に入ってきた?急に現れたかと思いきや人の上に跨りやがって」
ルイの挨拶を一蹴して、玉木はそう吐き捨て、チッと舌打ちをする。
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