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淫魔くん、初めてのごはん⑩
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「ん…あー…」
カーテンから差し込む強い日差しで、玉木は薄っすらと目を開けた。
もともと低血圧なうえ、あまり十分な睡眠はとることが出来なかったため、玉木の顔はかなり凶悪になっていた。
寝不足で頭が鈍く痛むわりには、体は何となくスッキリしていて妙な気分だった。頭と体を別に考えたら、頭は不調、体は好調、といった感じだ。
ふと隣を見ると、ルイの姿がないことに気づく。ベッドもすっかり冷たくなっているので、いなくなってからもう随分と経っていることが分かる。
昨夜、もとい数時間前までかなり手酷く抱き潰したように思えたが、案外体力があるらしい。
上半身を起こし、がしがしと頭をかく。
「…ヤリ捨てされた女の気分」
どうにも面白くないような、ムカつくような、よく分からない感情が玉木を苛む。久しぶりだったからか、相性が良かったからなのかは分からないが、ルイとの行為は今までで一番満たされた気がした。
だからこそ、一夜限りなのが残念に思ってしまった。
かといって、インキュバスであるルイとの連絡手段などあるはずもなく。
(…結局最後の最後までアイツに振り回されてんな)
玉木は、しばらくぼーっと空を見つめた後、さすがにそろそろ仕事の支度をするかとベッドから降りようとした。
――すると、突然目の前の空間がぐにゃりと歪み始めた。
寝不足からの眩暈かと思った瞬間、ぼんっという何かが弾けるような音と共に膝に感じる重さ。
(…あ、なんかデジャヴだな)
「…う、わっ!た、たまきさん…っ!」
膝の上、鼻と鼻がくっついてしまいそうな距離に突如現れた、先ほどまで頭の大半を占めていた青年。
その青年――ルイは、玉木とのその距離にたちまち顔を赤くした。
「…あ、お、おじゃまします…!」
昨日同様、正しいような間違っているような挨拶をするルイに、玉木は微笑を浮かべた。
確かに一夜限りなのは惜しいと思ったが、まさか数時間後に再会はさすがに早すぎるだろう。
だけどどこか湧き立つような気分になるのは、寝不足からの不調のせいだろうか。
「…んで、今度はなんだ」
「…ぅんと、あの…」
ルイは少しだけ言い淀んでから、拙い喋りでぽつりぽつりと話し始めた。
あのあと、重たい身体に鞭を打って大急ぎで魔界に戻ったルイは、瀕死の使い魔に精力を供給した。
もう僅かな気しか残っておらず、あと一歩で消滅してしまうくらい危ういところだったという。
ルイは玉木のおかげで得た大量の精力を――半ば不本意だったが――すべて使い魔に与えたので、一瞬で元の体に戻ることが出来た。
大層喜んだルイは、これからまた一緒に暮らしていけると思い込んだが、そんな簡単な話ではなかったらしく。
これから先も使い魔と暮らしていくには、定期的にルイは魔力を蓄え、使い魔に精力を供給していかねばならなかった。
それを聞いたルイは、ガツンと頭を殴られたようなショックを受けた。
人間から精液を貰うということがどのくらい難しいかというのを、今回のことで身をもって知ったルイの顔はみるみる青ざめ、ついにはその瞳に薄っすらと涙を浮かべていた。
可哀想なほどぷるぷると震えだした頼りのない主の姿を見て、使い魔は一つ溜息をもらしたあと、思いついたように顔を上げた。
「…玉木さんに、専属で契約を結んでもらえばいいって…」
「契約?」
訝しげに聞き返す玉木に、ルイは小さくこくんと頷く。
悪魔との契約など、嫌な予感しかしないと玉木は疑うような目でルイを見る。
「えと、その、契約すると僕は玉木さんの精しか受け付けなくなるの」
「…ほう」
「それで、玉木さんは僕以外と、その…え、えっちをできなくなって…あ、で、できるんだけどそんなにきもちよく…?なれないみたい…」
「…マジか。…仮に契約した場合、解除ってできんのか?」
「あ、うんっ、でもね、その場合玉木さんの寿命の三分の一を貰っちゃうことになる…」
「はあ?!」
セックスだの気持ちよくなれないだの、そこまでデメリットがないなら結んでもいいかと思っていた矢先に、まさかそんな悪魔要素を急にぶち込まれるとは思っていなかった。
いきなり寿命の話をされ、玉木は嘘かと思ったがルイが自分に嘘をつくはずがないと分かっているのでさらに困惑した。
はあ、と頭を抱える。
ルイとの一夜は悪くなかったし、もう一度抱けるなら抱きたいとも思う。
他に相手を見つける面倒を考えると、手近にセフレのような存在がいるのもいいんじゃないかとも思った。
だが、飽き性の玉木がいずれルイに飽きたとして、縁を切る代わりに寿命の三分の一を奪われるのはあまりにもデカい。
不安そうに顔を伺ってくるルイに、玉木は静かに声をかけた。
「…とりあえず考えとくから。もう帰りな」
「あっ、そ、それが…魔力をたくさん貰うまで帰ってくんなって言われて…、あのっ、玉木さん、ぼく、一緒にここに住んでもいいですか…?」
なぜか期待するようにキラキラとした目で自分を見つめてくるルイに、玉木はとうとう項垂れた。
面倒な悪魔、もとい淫魔に憑かれてしまった。
(…あーもうクソ、仕方ねえ。今日も死ぬほど抱き潰してやる)
目の前の男がそう思っているなんてつゆ知らず、ある意味能天気な淫魔くんはこれから先の生活に少しだけ胸を弾ませているのだった。
淫魔くん、初めてのごはん end
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