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僕の帰る家(上)
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ひどい頭痛で目を覚ました。
自然と瞼を開くと、まるで生まれて初めて世界を見たかのように眩しい光で視界が遮られる。
鉛のように重い体をゆっくりと起こし、徐々に光に慣れてきた目で周りを見渡す。
「優希…?優希!」
寝室の扉が開き、背の高い男性が自分に向かって声をかける。
「…ぁ」
喉がカラカラでうまく声が出せない。
まるで話すことを忘れていたかのようだ。
「待って、今水を持ってくる!」
そう言い再び寝室を離れたのは30代半ば程の身に覚えもない男性。
以前の記憶を辿ろうとしても、自分以外のことが何も思い出せない。
僕の名前は坂下優希。
27歳で中学校の教員をしていたところまでは覚えている。
どうして僕はベッドに寝ていた?
この頭の痛さと体の重さは一体なんなんだろうか。
回らない頭をフル回転させ考えるも、眠る前のことが一切思い出せない。
ともなくして男性が僕に水を持ってきた。
「水は飲めるか?」
彼からグラスに注がれた水を受け取り、思うように動かない手でゆっくりと口へ運ぶ。
砂漠に水が与えられたように、水分が喉に染み渡り、やっとのことで言葉を発した。
「あ、りがとう」
「よかった。優希が目を覚まさなかったらどうしようかと心配でたまらなかった」
「あの…僕、何も思い出せなくて。どうして眠っていたんですか?あなたはだれ?」
喜びに満ち、うっすら涙を浮かべていた彼の表情が一変し曇る。
「……思い出せないのか。まぁ無理もない。君は飛び降り自殺をしようとしたんだから。」
「飛び降り自殺?」
「もしかして俺のことも思い出せないかな」
「すみません」
「…中澤誠一、君の恋人だよ」
「こい、びと」
彼は辛そうに顔を歪め名乗る。
この表情をみて僕は察した。
この人の言ってることは本当なのだと。
「大丈夫だよ。少しずつ思い出してくれたら…。もう1回1歩ずつ始めよう。…なんて言っても、俺を覚えてない君にとって俺は…ただの同性の男としか思えないかな」
彼は僕を抱きしめようとして離れる。
今の僕に彼を愛することは出来なくても、そんな顔は見たくないと思った。
同時に中澤誠一、という名前に心が暖かくなる。
僕はこの人を愛していたんだ。
「覚えてなくてごめんなさい。でも僕は今あなたにそんな顔して欲しくないって思ってる。中澤誠一さんという名前がどこか懐かしくて、暖かくて。僕はあなたを愛していたんだと思います。だからもう1回、思い出すまで最初から始めさせて貰えませんか」
少し話しただけでも痛くなる乾いた喉で、僕は必死に答えた。
「優希…。ありがとう。」
今度は彼の腕が僕を抱きしめた。
この温もりを僕は知っている。
中澤誠一、僕の恋人だ。
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