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僕の帰る家(下)
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その日、僕は夢を見た。
ここではない別の家で誠一さんと一緒にいた。
夢の中の誠一さんの顔はぼんやりとしていてはっきり見えない。
ただ、僕はとても愛おしくて、守ってあげたいと思っている。
『優希、これからも一緒にいてほしい』
『当たり前だろ、でもその前にちゃんと片付けないとな』
『え〜、もういいんじゃない。僕が別れ切り出したらあいつなにするかわかんないよ』
『だからだろ。つーかなんでそんなやつと婚約までしてたわけ』
『それは優希と出会う前にしちゃったことなんだから仕方ないじゃん。だからさ、優希が僕のこと奪ってくれればよくない?』
『奪うってどうやって』
『僕のこと、監禁しちゃったり?』
『じゃあもうここに住めば』
『え、それプロポーズ?』
『さあな』
『えー、ちゃんと言って!僕のこと好き?愛してる?』
『好き、愛してるよ』
『投げやりだめ、ちゃんと言って』
『愛してる、誠一』
これは、何かがおかしい。
『僕も優希のこと愛してる!』
『ば、か!そんな急に飛び付いてくんなって』
これは、誰?
誠一…?
夢の中で僕が誠一と呼ぶ人物はどこかあどけなさが残る少年。
まるで誠一さんとは正反対だ。
『………っ!?ま、まって来ないで!』
『誠一?』
夢の中の僕が後ろを振り返るとそこには誠一さんが立っていた。
『やだ、やだ来ないで、ごめんなさい、ごめんなさい、やだ、許して!!!』
冷たく鋭い目をした誠一さんが、夢の中の誠一を掴み上げると無表情のまま殴る。
床に叩きつけられた誠一には見向きもせず、今度は夢の中の僕へ近寄り強引に立たせる。
『おい、誠一!』
『お前が坂下優希か。随分と誠一を可愛がってくれたようだな』
『てめぇ婚約者相手に何してんだよ!』
『俺と誠一が婚約者と知っていながら抱き合っていたと?』
『それは、てめぇが誠一を大事に、っぐは!』
頬を殴られ叩きつけられる感覚。
俯瞰して見ているはずなのに、なぜか頬の痛みがわかる。
『俺が誠一の婚約者であってお前は他人。誠一は俺がこれからもたっぷり可愛がってやるから安心して死ね』
誠一さんは俺の胸ぐらを掴み、ベランダへ追い詰める。
これは、夢?
『右京!!!待って、やめて、やめて、お願いだから!!!』
誠一の悲痛な叫びは目の前のこいつには届かず、俺はベランダから落とされた。
『優希、優希ーーーーー!!!』
違う、これは夢じゃない。
これは俺の記憶。
俺は坂下優希、27歳で中学校の教師をしている。
恋人は中澤誠一。20歳で大学生。
まだあどけない顔をした誠一には婚約者がいて、定期的に暴力を振るわれていた。
飲み屋でバイトをしてた彼と知り合ってその事を知って、最初は話を聞くことしかできないと思っていた。
ただ話を聞いているうちに助けたい、守りたいと思うようになって、次第にそれは恋愛感情へと変わっていった。
彼の婚約者の名は、戸次右京といった。
写真で見る限り温和で大人な余裕さえ感じられた。
誠一さんは誠一じゃない。
戸次右京だ。
誠一はどこだ。
ここはどこなんだ。
記憶から目が覚めると、俺はすぐさまベッドから立ち上がり、寝室を出た。
「あ、起きたんだね。無理をさせちゃったかな」
どうしてこいつは何食わぬ顔をしてここに座っている。
殺したいほど俺を憎んでいたんじゃないのか。
死ななかった俺を近くで生かし、記憶をすり替えた。
なぜそんなことをするのか、理由は凡人にはわからない。
戸次右京は人とはかけ離れた神経の持ち主だ。
「優希?そんな顔をしてどうした」
「全部、全部思い出した。誠一はどこだ」
「…へぇ。」
温和で優しい表情から一変し、戸次右京はにやりと薄気味悪い笑みを浮かべる。
「ま、さか、お前…誠一を…」
「っ、ははははははっ!俺が、誠一を?殺したとでも言いたいのかな?」
「…っ」
「そんなことするわけないだろ。誠一は今でもたっぷり可愛がってやってるよ。どうやら監禁願望があったらしいからね。彼の要望通り、監禁してやってさ」
「監禁だと?笑わせんな。早く解放しろ!」
「どこをどう考えれば俺がお前の言う通りにすると思った?お前が眠ってる1ヶ月、俺は毎日お前を躾けて体に染み込ませてやったはずなのにまだ立場がわからないようだな。人の婚約者を取ろうとしたお前に、誠一の居場所を教える義理はない」
「お前なんかより、俺の方がよっぽどあいつを幸せにしてやれる…」
「っははは、誠一はもうお前のことなんて覚えてすらねぇよ!この1ヶ月間で今じゃ意思のない俺の従順な犬に成り下がってるからなぁ」
「それ…どういう…」
「お前がどうしてもって言うなら、そうだな。誠一の今後はお前次第にしよう。誠一のことを守りたいというのなら………」
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俺は坂下優希。
27歳で中学校の教師をやっている。
「ただいま」
「おかえり」
同居人は戸次右京。
俺には勿体ない恋人だ。
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