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果物と同価値の少年
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その骨董商がまず目にしたのは、積まれた巨大な果物だった。
どんな痩せた土地でも簡単に生えて大量の実をつけ栄養価も高いことから、貧しい者がよく栽培している果物だ。現地で貧者のフルーツと呼ばれるそれは、豚肉のような風味の甘酸っぱい匂いと味がする。
そんな物を市場で売るという事は、売り手はよっぽどの極貧者だ。骨董商が売り手を見てみると、案の定、地面の上に座っている女は痩せきっていた。
憐れだけども仕方がない、これがこの国の実情だ。
骨董商が売り手の女を見た理由は、女の横に座る少年だ。日本人の感覚でも美形だと思う程、整った顔立ち。女の子供なのだろうか、汚い短パンを一枚身に付けただけで靴も履いていない。頬はコケており裸の上半身には肋骨が浮いていてみすぼらしいが、それでも美しい。特に少年の瞳だ。深い緑の光彩に金が上塗りされたような、九谷焼の金緑のように独特な金属的光沢を持った不思議な瞳だった。
少年の首には値札が掛かっている。
この国では珍しくもない。口減らしと現金獲得を同時に行える子売りは、驚くほど簡単に行われる。少年の首に掛かった値札には、貧者のフルーツと同じ値段が書かれていた。
骨董商はその少年が欲しくなった。一年を超える孤独な海外生活に憂いていたのか、一人で暮らす家のどうしようもない空間に寂しさを感じていたのか、彼は少年を家に置きたくなった。値段の安さも、彼の人身売買に対する垣根を低くした。
ちっ
横にいた男が少年を見て忌々しげに舌打ちした。骨董商が警備に雇った男だ。
ウォカレラ持ちです。
骨董商が尋ねると、警備の男はそう答えた。ウォカレラとは初めて聞く言葉だった。骨董商が更に尋ねると、警備の男は渋い顔で語った。
ウォカレラは悪魔の子。災いを避ける為、必ず母親と一緒に捨てなければならない。その瞳は穢らわしい金色に輝いており、決して凝視してはならない。
骨董商はうんざりした。この国の人間は迷信深く、決まりかけた商談を呪術師に従い、破棄される事もあった。医学知識が未熟なこの国では、身体障害者への考えも同じようなものだった。ウォカレラとは、珍しい光彩を持って産まれる子供のようだ。恐らく金属的な光沢を不気味に思った者が悪魔の逸話を作り出し、結果的に迫害がうまれたのだろう。
大人になる前に死ねば良いんだが……。
小さく呟いた警備の男の言葉に、そこまで言うのかと流石の骨董商も嫌な気分になった。それだけ、この国の悪魔に対する恐怖は根深い。
次の日、骨董商が再び市場を通り掛かると貧者のフルーツは売り切れていた。そして、女の横には少年が売れ残っていた。
良いではないか。
心の中で骨董商自身が呟いた。
この少年は迫害され続ける運命なんだ。痩せて憐れな少年を買ってやる事は、文明人である自分の慈悲だ。この国で何をしようと、金さえあれば罪に問われる事はないのだ、何を迷う必要がある?
売れ残った少年を見た瞬間、溢れた傲慢な考えは骨董商の心を満たした。その夜、闇に紛れるようにして骨董商は少年を買った。
「ごめんなさい、ごめんなさい、憐れな人」
自らの子の手を引きながら立ち去る骨董商を見送りながら、女は泣いて謝り続けた。謝りながらも、女の顔には笑みが浮かんでいた。
ああ、助かった。
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