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ハルの能力の覚醒-2
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翌朝パンとスープだけの質素な朝食を食べ終えると、神官長のメイロードが一足先に王族たちと共に城へ戻る美琴を連れて、食堂に居るハルの元を訪れた。
直ぐに洗浄師として役割を果たす為に王都を経つ彼女の身を案じるハルと、しばらく会えない悲しみに涙を潤ませる美琴の姿は、窓から差し込む朝日に照らされて、神々しい美しさだと誰もが思った。
メイロードから、本日より『ハル・クリバヤシ・プレミアム』と名乗るように言われたのだが、あまりにもダサすぎてハルはしょっぱい顔をしている。
「えぇぇ、元の世界風に言うと『栗林ハル上質』とか『栗林ハル高級』だよね?名乗っただけで、どうぞ辱めてくださいって言ってるようなものじゃん。どんな罰ゲームなんだよ!恥ずかしいってば」
「ぐっ、そこに文句をつけられたのは、歴代の異世界人の中でもハル様だけですよ」
項垂れるメイロードの肩をポンポンと叩きながら励ましている美琴も、実はハルの意見に激しく同意していたのだが、本来ならば敬愛されるべき神官長の手前黙っておいた。
「ハル。私も今日からは『ミコト・ツキシマ・プレミアム』よ。あんたと同じだなんて家族になれたようで嬉しいわ」
「ぐへへっ。そうだね……なかなか良い名前だな」
あっさりと手のひらを返したハルの言葉にメイロードを始め、食堂で洗浄師の様子を見ていた者全てが「ハル様って……こいつチョロいな」と内心馬鹿にしていたのは秘密である。
美琴を連れた国王御一行が王都にある城へ無事帰還したと知らされたハルは、午後には残りの者も全て転移魔法により集団転移すると聞き興味を持った。
異世界転移の時は身体がだるくなり使い物にならなかった自身がどのようになるのか不安もあるが、知識としては馴染み深い魔法陣をこの目に焼き付けようと心踊らせている。
朝食後、このような穏やかな時間など滅多に過ごせない騎士団員達が、束の間の一時を楽しもうと語り合っていると、食堂を訪れた神官が何やら言いにくそうに佇んでいた。
「あの……神官長の留守の間ここの責任者を務めるハビーと申します。お寛ぎのところ誠に申し訳ございませんが、モナ様の……魔力の消耗が激しく、午後の転移は延期になる確率が高くなりました」
「そんな!我々団長クラスが王都を空けるのは危険だぞ!」
筆頭魔術師のモナは大陸でも名の知れた大物で、今まで魔力切れを起こしたことなどないのだが、『邪心』の浄化で疲弊している洗浄師と同じく、彼らを日々忙しく転送している為、疲労の度合いは計り知れない。
その上今回の召喚の儀式では神官長のメイロードと共に、過去最大の魔力を消費したとの報告も受けている。
神官の言葉に一斉に動揺し始めた騎士達ではあるが、直ぐに落ち着きを取り戻して状況把握のため、萎縮した神官へ優しく声をかけた。
「大声を出して悪かった。……モナ様はそんなに酷い状態なのか?」
「はい……それが、モナ様に回復魔法をかけていた弟子のルピに至っては、先程力尽きて倒れました。……このままでは魔力が枯渇して……魔術師としての復活は無理かとーー」
「…………なんてことだ」
魔力切れならばまだ救いはある。
しかし枯渇してしまえば二度と魔力が戻ることは無く、魔術師協会からも名は消される悲劇が待っている。
力を失った魔術師はその現実を受け止められずに廃人になるものが殆どで、それだけ彼らがプライドを持って国や民のために貢献しているかも皆知っている。
誰ともなく立ち上がると出口に向かい、先程転移魔法が行われた場所へと移動した。
ハルたちが召喚された時とは別の広間にやってくると、鈍く光る魔法陣の上ではモナが荒い息を吐いて、動かなくなった弟子の頭を撫でていた。
淡い空色をしたサラサラの髪が光を失って、大理石の床へと流れている。
そっと寝かされたルピの顔は、体温を感じる赤みがすっかり抜けて青白くなっており、魔力どころか命すら危うい状態ではないかと一同が息を呑んだ。
「可哀想に……モナ様、ルピは……」
過去の大陸戦争や魔物討伐では共に闘った第一騎士団の団長は、ゆっくりと首を横に振るモナの姿を見て、絶望が彼の心を打ち砕いた。
ハルは吸い寄せられる様にルピの傍へ寄ると彼の足元に屈みこみ、まだ幼さの残る少年の顔を覗き込んだ。
ローブの裾からは折れそうな程に痩せた白い足首が見えており、彼らの日常がいかに過酷なものかが伺えて、労うようにその足首を優しく握った。
(まだ小さいのに……この身体で国や民を守る為に頑張っていたんだな……少しでも回復して欲しい……)
ハルの心の声に同調するかのように触れていた足首が柔らかく光り、指先がほんのり暖かいと感じた時、モナが驚きながら声を上げた。
「ルピの魔力が……徐々に増えておるぞ……ハル様は回復魔法が使えるんじゃな!しかも無詠唱なんて過去の文献を読んでもなかなか有りませんぞ!」
「え!?魔法?……この僕が、回復魔法を?ただ心の中で回復して欲しいと願っただけなんだけどな……」
びっくりした拍子に手を離した途端、指先の温もりが失われ、柔らかな光もあたりに吸い込まれてスーッと消えてしまった。
「すごい回復力じゃ!ハル様の魔力は相当なものとお見受けした!」
モナの歓喜に満ちた声を聞いて騎士団員達も一斉に歓声を上げると、たった今絶望感を味わっただけに、喜びもひとしおで興奮おさまらぬ状態となった。
当然ハルも自分の能力に驚いている。
「うぉぉぉ、チートすげえマジ僕やばい!……この調子でモナ様も回復すれば、今日中に王都まで戻れるんですか?」
「勿論ですとも!ハル様、お願いできますかな?」
「喜んで、ーーねっ?団長!ご褒美をください!」
振り向いたハルの言葉につんのめりそうになったリバーダルスは、周りの騎士団の仲間が皆揃って期待に溢れた視線を自分に寄越していることに気が付き、頷く以外にリアクションを取れなかった。
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