アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
のどかな休日-2
-
「では、治癒魔法の一般的なもので、化膿を止めながら傷口を塞ぐ、というのは如何ですか?」
詠唱は女神・アリーシャが古代使用された言語と言い伝えられており、現代では魔術を発動する際にしか利用はされていない。
ルピは魔術師入門の初歩的なテキストを寮から持ち出して、ハル向きの簡単な詠唱を選んで勧めてきた。
「いいね!ルピ早速教えてよ」
ちょうど分厚目の紙で指先を切ってしまった魔術師が居たので、彼の了承を得てから被験者になってもらい治癒魔法を掛けていく。
「*****、*****」
ルピがそよ風のように澄んだ美しい声で詠唱をし始めると、傷口の半分が綺麗に塞がり、そこで一旦詠唱を止めて、ハルにも唱えるように促した。
「あー、さっぱり分かんないや。……ちょっと試してみようかな」
耳に馴染みのない言葉では頭にすんなりとは入って来ず、どうしたものかと考えたハルは以前小説で読んだ異世界の物語を思い出して唐突に叫んだ。
「言語チート発動!!!!!トゥルリラッタラー!」
「何ご自分で効果音までつけているんですか……で?さっきの詠唱は出来そうですか?」
まだ負傷した箇所が半分残ったまま放置された魔術師が、地味に痛む指先を気にしながらハルに問うと、キリリと凛々しい表情を作ったハルが再び挑んだ。
「*****、*****」
「おおお!流石ハルだ!完璧ですよ」
「うーん。詠唱ってカッコイイんだけどさ……やっぱり面倒臭いなあ、なんて。ははっ」
今度こそ治癒魔法の詠唱に成功し、完璧に塞がった傷口をよく見ると、うっすらとだが桜色の傷跡が残っており、無詠唱で行った時のように跡形も無く消えることはなかった。
ハルは詠唱有りでも傷跡を残さずに治療できないものかと考え、視線の先に置かれたルピの指先のささくれへ向かって何気に唱えてみた。
「&々#¥%、÷〆〒=^」
「痛い!痛い!痛いですって!」
ハルの意味不明な言葉に反応したささくれの小さな傷口が、あっという間に広がって血を滲ませながら悪化してしまう。
「あ、ごめんごめん!すぐに治すよ」
ハルが焦って先程習ったばかりの詠唱を唱え直すと、再びルピの指先は治癒の経過を得て、美麗な形を取り戻した。
「僕は短い文章を逆さ読みするのが特技でさ。何となく口ずさんでしまうんだ。ごめん」
自分でも気が付かない程度のささくれが、瞬時に痛みを増していった様を思い出したルピはゲンナリとして、バツが悪そうに謝るハルの人と成りを分析したあと迷うことなく言い切った。
「ハルには、やはり無詠唱をお勧めします」
ハルには無詠唱での治癒魔法が合っていると結論づけられた後、魔術師達と他愛も無い話をしていれば、お昼を知らせる鐘が王城内に響き渡った。
ルピが手提げ籠をテーブルに置き、中から手作りのサンドイッチを取り出して皆へ配っていると、ハルたちの召喚の儀に携わった神官長のメイロードと美琴が部屋を訪れた。
「ハル!久しぶりね!魔物討伐ではあなたの武勇伝を聞かされているわ。よく無事で……本当に良かった」
初の魔物と対峙したハルがどれだけ活躍したかは、控え目にだがフジョーシ国外まで広まっており、美琴の耳にも勿論入っていたのだが、元来気が優しく虫一匹殺せないハルを気付かっていた美琴は、手放しでは喜べなかった。
「美琴ありがとう。……ホラー映画で言うとR-18を軽く超えたグロさだったよ。ゲームならZ指定間違いなしだな」
おどけては居るが、やはり強烈だった魔物の絶滅する姿を思い出し、ハルの表情は引き攣っている。
美琴はハルのそばへ駆け寄るとふんわりと柔らかく抱きしめて、小さな体で慰めようとハルを優しく撫でている。
漸く落ち着いたハルから少し距離を置いた美琴が周りを見渡して、誰かを探す素振りをしているのでルピが手早く説明を入れた。
「リバーダルス団長なら屋上で日光浴の最中ですよ。ハルったらあからさまに残念な顔をしながらここへ来ていました」
それを聞いた美琴は貴重な時間を割いてハルに付き合ってくれるルピに失礼だと苦言を呈した後、どうせハルのことだからちゃっかり覗いてきたのだろうと問い詰めた。
「昼下がりに小麦色へと色付く肌を惜しみなく披露する団長の裸体!……はぁはぁ……そりゃもうワンダフルだったよ!」
いとも簡単に白状し、すぐさま妄想の旅人へとなり興奮し始めたハルに、呆れて溜め息を漏らした美琴だが、こんなことには慣れているので昼からは予定がなくなったハルへ聞いてみる。
「ハルは日焼けしないの?あんたかまちょなんだから、リバーダルス団長の隣で自分も焼いてくれば良いじゃない」
「チッチッチッ。美琴くん分かってないな。団長の小麦色の肌と僕の雪肌のような色白がまぐわれば、陽と陰のコントラストが美しいことこの上ないだろ?」
人差し指を立てて左右に振りながら、さも当然のことと言わんばかりの根拠の無い自信を溢れさせた顔でハルは答える。
「ここまでいくとハルの妄想はドラマチックな病(やまい)だわ」
「何でだよ美琴!弾力を保ちながらも引き締まった団長の小麦色の美尻に僕の色白の腰がパンパンと打ち付けられる情景なんて、素晴らしい眺望以外の何物でもーー」
べちっ
ゴツン
「痛っっったい!もう二人ともすぐに手が出るところは直した方が良いよ?」
相変わらずハルへの突っ込みは以心伝心な美琴とメイロードが、芸人も驚く程のいい音を立てている。
「お下品ですよ。ほら、他の魔術師の皆さんが真っ赤になられています。その痛々しい想像は頭の中だけで繰り広げてください」
メイロードの言う通り、ハルの発言は意図的ではないにしても、初心(うぶ)な魔術師達の脳を破壊する勢いでいやらしいのだ。
メイロードが今しがたハルへの突っ込みの役割を果たし終えた竹箒(たけぼうき)をそばの壁に立てかけていると、カッと目を見開いたハルが物凄い速さでやって来て、徐に跨った。
「……ハル。何をやってるの?それで空を飛ぶ気ならかなり危ない人よ。……ここが異世界だからってファンタジーに入れ込み過ぎだと思うの」
「でもさ!何人もの魔術師がほうきに跨って、星空をかっ飛ぶ姿は壮観だと思うんだ!」
美琴の冷たい言葉にも負けじと熱弁するハルに呆気にとられた魔術師だが、ルピは脳内で的確にハルの言ったことを再現してみる優しい(甘い)少年である。
「でしたら、箒(ほうき)に速度や方角などを操る為の回路を組み込んで、風魔法と浮遊魔法を使用すれば、不可能ではないですね」
この国きっての優秀な魔術師であり、筆頭魔術師・モナの第一弟子のルピがふむふむと頷きながら更に見解を広げようと口を開くと、他の魔術師達も目を輝かせて待っている。
それをピシャリと止めたのはメイロードだった。
「ハル……研究熱心な魔術師達を惑わさないでください。皆様もその案が提出されたとて、私が全ての権力を駆使して却下しますので、無駄な時間は費やさないで下さいね」
主要神殿の神官長であるメイロードは魔力も高く、魔術師に関してのあらゆるものに決定権を持つ人物だ。
政治には関与しないと言うのは建前で、彼の意見は国王・ミカエルでさえ直に取り入れている。
「うわぁ、メイロード様ってば夢がないなー。ドン引きだわー。常にロマンを追いかけるのが男ってものなのにさ。部下の優れた企画を闇に葬る嫌な上司じゃん」
「何とでも仰って下さい。……それでは美琴様、そろそろ出発のお時間ですので、参りましょう」
これから地方の『邪心』を洗浄しに行く者達は、既に魔術師棟の最上階にある魔法陣が描かた部屋へ集合している。
「はい、メイロード様。じゃあねハル!何としてでも団長をモノにしなさいよ!」
「おうよ!スッポンのように食いついて離れないぞ」
二人は怪しげに微笑み合うと、再度しっかりと抱擁をしてからしばしの別れを惜しんだ。
その頃日光浴を楽しんでいたリバーダルスはうたた寝の最中、妙な悪寒が走ってぶるりと身体を震わせていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
45 / 81