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ジュリアスの想い人-1
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ハルは転移魔法でジュリアス達を転送する際、記録魔法を施した魔石を一緒に投げ込んで、王城内の幽閉塔へと転送した。
突然現れたジュリアスたちに驚いた監視人が負傷している子供を優先し、ルピとテッドを呼んで素早く治癒魔法を掛けて治療した。
「僕ね、転送される時、赤い髪をした猫の獣人さんと目が合ったんだ。そしたら痛みが少なくなったんだよ」
「エドガー。それはきっとハルが……異世界人様が瞬時に魔力を注いで、痛みを和らげてくれたんだ」
未だに真っ青な顔をしたジュリアスの言葉を聞き取ったルピとテッドは、あの優しいハルが苦しむ子供を見てどんなに心を痛めたかと憂いた。
子供の傷口が塞がり痛みも完全に無くなったことを確認すると、魔石を国王に渡してその場にいた者達で発動させる。
ハルが転移と共に投げ込んだ魔石にはアジトに侵入してからの様子が全て録音されていた。
一連の流れを聞き終えた国王から弟達の命は保証されると聞かされたジュリアスは、長期間の緊張状態で神経がすり減っていたところ、安心感から張り詰めていた糸がプツリと切れたかのようにその場に倒れ、目覚めた時には感情の伴わない人形のようになっていた。
弟達は警備の整った第一騎士団 団長・コナーの実家に預けられ、きちんとした教育を受けることになった。
ジュリアスは黒幕の正体を知っている可能性が有ると見て、そのまま幽閉塔に軟禁されることになったが、少しでも回復するようにとのはからいで、弟達と定期的に会わせることにした。
ジュリアスは心の優しい子煩悩な兄であり常に弟達を大切にして来た。
その弟を目の前で傷つけられ、痛みに堪えながら苦しむ姿を見て胸を痛め、心が壊れて人形のようになってからは、自分のせいで弟が酷い目にあったと呟き、心を閉ざしたまま過ごしている。
もしかすると重大な情報を握っているかも知れないと予測し、幽閉を続けるものの何も進展はなく日に日に弱っていくジュリアスを何とかしようとあらゆる治癒魔法がかけられたが、やはり元には戻らなかった。
恋人であるヘンリーが甲斐甲斐しく世話をやき、愛情を注いでも強ばったジュリアスの表情は解れることはなく、なすすべがない状態に業を煮やした上層部の者達は、密偵部隊のスティーブを呼び寄せ彼を徹底的に調べさせた。
ハルと『邪心』の洗浄から帰って来た美琴も同席したが、静かに事の経過を見守っている。
スティーブが時間をかけて調べると、魔術ではなく古い術式が掛けられており、このままでは元に戻るどころか徐々に弱っていき命すら危ない状況にあるのだと分かった。
「ゼロが言っていた『面白い贈り物』の正体は、この古い術式のことを示していたんだな。どこまでも残忍な奴だ」
悔しげに吐き出したハルの話を聞いて、その場にいた者達はゼロの惨さに言葉を失ってしまった。
「ジュリアスを正気に戻らせるには真実に愛する者、本心から愛する者からの口づけによって解かれます」
更に術式の解除を探ったスティーブが出した答えは、どうも陳腐な内容ではあったのだが、それが解除のきっかけになるのならばと早速ヘンリーが呼ばれた。
「残念やけど僕ではダメなんや。ジュリアスの心の中には想い人がおって、それを知った上で交際を申し込んだんやけど……キッついなぁ」
ヘンリーの話によるとジュリアスの心の中には、昔付き合っていたリバーダルスが存在しており、今でも想い続けている。
それでも良いからとリバーダルスを愛する彼ごと好きになったヘンリーが、頼み込んで付き合ってもらったのだ。
ジュリアスは過去に王立学園に留学生として在籍したことがあり、その頃短い間だったが三つ年下のリバーダルスと付き合っていたことをヘンリーに打ち明けていた。
リバーダルスはそれまで女性としか付き合ったことがなく、男性と付き合うのはジュリアスが初めてだったのだが、やはり恋愛感情には発展出来ず、彼に対して恋人と接するようなことはできなかった。
そんなリバーダルスの態度にモヤモヤしたジュリアスは彼の元を去って行ったのだが、心の中には彼がずっと住み続けている。
「では……リバーダルス団長をこちらへお呼びいたしましょう」
古い術式の解除に立ち会っていた神官長・メイロードは、ちらりとハルを見たあと魔鳩を飛ばしてリバーダルスを呼び寄せた。
「ハル……見たくはないでしょ?隣の部屋で待ちましょうよ」
美琴の気遣いに笑顔を向けたハルは、平気だよと言って、親友の優しさに感謝した。
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