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なぜ私が青八木をあげる相手に今泉を選んだかの、きっかけの一作〔再録〕
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『青空』
※私のペダでは2年目インハイ、
手嶋たちは完敗しています
峰ヶ山から戻るのを待った。
はっきりさせなきゃならない。
俺かあの人、どっちかがコワレるとしても、はっきりさせなきゃならない。
向こうも気づいた。
併走していた小野田を先に行かせ、俺の前に立つ。
ここではゆっくり話せない。
俺がスコットに跨がると、自分もキャノデに跨がった。
学校から2キロくらいのところに小さな神社がある。
スタレてるというと神社に申し訳ないが、事実だからしょうがない。
俺たちは自転車を降りた。
西部劇なら俺たちの間を転がり草が転がっていく感じだ。
「俺の指示を守れなかったよね」
「それは青八木さんもだ」
「青八木は副部長だ。それともエースは部長副部長より偉いのか」
「俺は俺の走りをする。嫌んなるほど我慢してきたんです。もう聞かない。一切聞きません」
「そうか」
ゆるく結んだくせ毛が向こうを向く。
もう一言何か言いつのりたかったが材料がなかった。
とっさに思い浮かんだのはどうでもいいことだった。
「中2の夏に、俺ボコりましたよね! あんたの学校の近くで! 徒党組んで!」
振り向いた部長の鼻梁を本気のパンチで打ち砕く。
「不意打ちかっ」
「あんたらもそうだった!」
「ああ。確かになっ」
パンチヒット食らった後とは思えないくらい鋭いストレートパンチが俺の顎に炸裂。
目の中に火花が散った。
「クズ! 卑怯者!」
「うぬぼれ小僧!」
「男食い!」
「岡惚れやろうっ」
「よけいなお世話だ!」
殴って殴られて、殴られて殴られて殴られて。
そうだ思い出した。
ボコられた時もコノヤロウ、すげケンカ慣れしてやがった…
身長差、リーチの差でヒットしてるだけで、圧倒的に俺がサンドバック。
「部長…ケンカ慣れして…」
鳩尾にくらって胃液吐いて、ついに俺はその場に崩折れた。
もう立ち上がれないというのに気持ちは全然落としどころに来ていない。
「あんたずるい…弱そうに見せて強え」
「しょうがねェだろ? こちとらおまえみたいなサラブレッドじゃねーんだから」
「俺はサラブレッドじゃねえ! それとも環境が整ってるやつはみんなサラブレッドなのか!」
「サラブレッドだね。どこのガキが小学生からスコット乗らしてもらえんだ! えっ?」
金…
金はオフクロを守ってくれなかった…
守ってくれなかったんですよ手嶋さん!!
叫びそうになるところへ小野田と幹と青八木さんが走ってきた。
「今泉くん! 部長さん!」
青八木さんがひらりと俺を飛び越えて、手嶋さんの傷を見る。
つぎの瞬間きっとなって俺を威嚇するように迫ってきた。
殴られる!
と身を縮めた俺の頭の上で幹がその拳を止め、“ダメデスヨ”的に首を横に振る。
青八木さんは渋々拳を引いた。
手嶋さんは青八木さんに、俺は小野田に連れ帰ってもらう羽目となった。
「どうして喧嘩しちゃったんですか? インハイの…あれですか?」
小野田のくせにさといじゃん。
「オーダー…ですよね。キホン、守るべきだけど、臨機応変も大事かなって」
小野田?
「鳴子君が出たときも、青八木さんが下がった時も思ったんです。オーダーはあくまで前提で、決めるのはあくまで自分なのかなって…僕なんか絶対自分で決めれませんけどね」
俺を支えながら歩く小さな小野田の肩を借りながら、俺は自分の小ささをかみしめる。
どこが一番いけなかった。
かれの手を振り払ったときか?
昔の禍根をもち出したとこか?
いや。
バンビがひらりと俺をかわしたこと。
そこがいちばん痛かったんだ。
泣きたいような、笑い出したいような気持ちで小野田を見ると、何のことはない、小野田は鼻歌で、『ヒーメヒメ…』と口ずさんでいた。
俺に気づかれて狼狽した。
「や、これはですね、男どうしの一騎打ちなんて初めて見ちゃって、ちょっとワクワクしちゃったので…」
いつもの小野田流だ。
男どうしの一騎打ちか…
禍根はここまでにしとけと…つまり…そういうことだろ小野田。
思わず小野田の髪をくしゃっとやった。
吹っ切れそうな気がした。
来年が…あるんだ俺らには。
だよな坂道?
「はい」
小さな山王は小さく、けどめいっぱい力強く答えてくれた。
その日。
空はやたらに青かった。
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