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地下室の番人①
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「ねえカノル、手伝い頼んでいい?」
使用人の先輩であるダティアリアが声をかけてきた。俺は窓枠のほこり払いをしていた所だった。
「いいぜ。ちょうど飽きてきた所だし、さぼる前にしてやるよ、なに?」
そう口の端を上げると、アリアは少しだけ眉間にシワをよせた。
「さぼらないで、また執事長に怒られたいの?...それで、頼みたいのは地下室から砂袋を持ってきて欲しいの。」
「地下室?」
俺はしばらくこの屋敷を探索しているが、アリアの口から出てきた場所は知らなかった。
地下室があるとは初耳だ。
「あれ?カノルは知らないっけ。厨房の横の倉庫の床を開けると入れるんだけど、そこに行って砂袋探してきて欲しいの。」
「了解。」
アリアは地下室の鍵を渡してくれた。
厨房からはいい臭いが漂っていた。ちらと覗くと、鍋やフライパンが火にかかり切られた食材が1人でにそこに飛び込んでいく。ゴーストのコックの仕業だ。
腹も減ってきたところだが今の目的は厨房では無い。そこを通り過ぎると小さなドアがある。ここが倉庫。
倉庫へは何度か来たことがあるが、床に入り口なんてあっただろうか。
中に入ると明かりを灯して床を見渡す。
ホコリだらけで黒ずんでいる床には入り口など見当たらなかった。
さらに奥に進むと床には小さめの汚れた絨毯が敷かれている。試しにそこを足でめくりあげると、床には四角く線が入っている。
「ビンゴじゃねぇの。しっかし...」
この屋敷はどこもかしこも汚れているのはもう慣れたが、こんな何年も使われていない所に入るなんて黒い制服がさらに黒くなりそうだ。
覚悟を決めて絨毯を払い除ける。
砂埃が舞い上がる、俺は胸元の布を口元に引き寄せた。
アリアから借りた鍵を開けて重い扉を開くと、そこには階段があった。
階段はくらいが、小さな光魔法を使って明かりを灯す。
数十段ある階段を降りればそこは物置になっていた。壊れた木製の車輪、破れた絵画、蜘蛛の住処になったタンス、など訳の分からないものが積み上がっている。
頼まれたものはここにありそうだ。
少しジメジメとする空気、ホコリとカビの臭い。地下室というくらいだからサボるには適していると思ったが、これでは長居する気も起きない。仕方なく捜し物を見つけ当てると、俺はその場を後にしようとした。
最後にその場を見渡すと物が積み上がっている後ろの壁が扉に見えた。よく見ても壁画とか壁紙ではない。
雑に中央周辺の物をどける。確かにそこにはとびらの取手のようなものがついている。だが押しても引いても1ミリも動きはしなかった。
煩わしくなって数回蹴るとミシッ…としぶい音が鳴ってトビラがずれた。そこを押すと扉はみるみる開いていった。大成功だ。
扉の奥はどうやら道が続いている様だった。
「地下迷宮か...?」
数歩進んでみた。
モンスターの気配こそしないが、雰囲気はそんな感じだった。今確かめる気は起きないが道はずっと奥まで続いていそうだ。いわゆるダンジョンってやつみたいだ。
まあアンデット共の根城だ。地下に迷宮があってもなんら不思議はない。
今日の所は素直に仕事をして帰ろうと扉の方への向き直ったその時だった。
扉が1人でに勢いよく閉まった。
「なっ、嘘だろ。誰のイタズラだよ!」
先程は手で動くようになったはずの扉は凍ったように固く動かない。蹴り飛ばしても軋む音すらしない。
「汝、何故の来訪か。ここは死の王の館、貴様のような人間との来るところではないぞ。」
聞いた事のない低く響く声が地下室に反響した。
ゆっくり振り向くとそこには見上げるほど大きな鎧が立っていた。数歩下がって全体を見てみたが、首から上が無い。
そいつは俺が初めて見るモンスターだった。でも聞いた事はある、デュラハンってやつだ。死の王がどうの言っているあたりドストミウルの手下だろう。
俺もしばらくここで生活していてだいたいのアンデッドとは知り合いだ。だが、ここに来て今更面識のないやつと会うとは...非常にめんどくさい。
「俺はカノル。ここで雇われてんだよ特別にさ。ドスト...旦那様に聞いてない?」
「...知らぬな。確かに使用人の服を来ているが、人間を雇ったなど聞いたことがない。貴様のような嘘つきは真っ二つにしてやろう。」
デュラハンは大きく黒い剣を抜くと振り上げた。
マジかよ。聞く耳持たずで戦闘開始?いや待て、てかこれはドストミウルが知らせていないのがいちばん悪いのでは、後で愚痴を言ってやろう。
それは丸腰の俺が生きて帰れたらって事になるか...
勢いよく振り下ろされた剣が地面を大きく割った。
間一髪出避けた俺にも大きな石破片や砂が降り注ぐ。
デュラハンはこちらを少しみると、低い声で何か言い始めた。すると、足元から炎が広がる。
狭い地下一面が青い火の海となった。
まずい、これは割と死ぬのでは...
そう思った途端左眼から黒いケムリが出てきて、俺の体に巻き付く。そいつが蝙蝠のように羽を広げると俺の体は宙に浮いた。
俺の体は炎から距離をとり丸焼きから逃れた。なるほどこんなことも出来るのかこの使い魔。
「貴様、それは...我が王の力か?」
「だから、仲間なんだって!アンタ人の話ちゃんと聞けよ、つかドストミウルを呼びやがれ!」
そう空中から叫ぶと、地面の炎が消えた。
デュラハンからは低い唸り声が聞こえる。
「我が主の名を軽々しく呼び捨てるとは...、たとえ認められた使用人であったとしても許すまじ。」
最悪だ。こいつは人の話を聞かずに一人で逆上してやがる。
次の瞬間、青い炎が視界を塞ぐ。
先程地面だけに留まっていた炎は、壁から天井へと範囲を広げ、見渡す限りの壁一面が燃え上がっていた。
まずい...と思った瞬間、
「ゲイル!怒りを沈めよ!」
聞き覚えのある声が響いた。
スっと一瞬にして炎が引くと、どこからともなくドストミウルがデュラハンの前に姿を現した。
「お久しゅうございます、我が主。」
ゲイルと呼ばれたデュラハンは膝をつき深々と頭を垂れた。
ドストミウルは直ぐに俺の方へととんでくると、浮いている俺を抱っこするように抱え込んだ。
「すまなかったなカノル、ケガはないか?」
「やけどぐらいだろ。てか、もっと早く来いよ!その前にさなんで俺の事こいつに言っておかねぇんだよ、そもそもそれが悪い!」
そうまくし立てられてドストミウルは少しだけたじろいだ。
「今回ばかりは私に原因がある。すまなかったカノル。」
「それはさっき聞いた。俺に謝ってどうすんだよ、コイツにも謝ってやれよ混乱しちゃってて可哀想だろ。」
そんなやり取りをゲイルはただ眺めていた。
このゲイルってやつからしたら、失礼な物言いをする人間と、それを1つも注意しないどころか謝り続ける主。信頼している部下から見たらどんな酷い絵面だろうか。
「ゲイル、この人間は私が拾って使用人として働かせている者だ、攻撃しないでくれ。しばらくここには来ていなかったから、君に伝えることが出来なくてすまなかった。」
「我のような者などに謝らないで下さい主。お久しぶりに会えた事をとても嬉しく思います。しかし、お言葉ですがわざわざ人間などを使用人にする必要があるのでしょうか。主と何か特別な関係のある人間で?」
デュラハンは困った様子でそう言った。
「特別な...」
ドストミウルがそう言いながらこちらをゆっくりと見た。
「まさか!偶然の成り行きだ。ほら、俺は礼儀知らずで、旦那様は優しいだろ。それが偶然仲良さげに見えるだけ。だから、ゲイルっつたけ?そういう事だからよろしくな!」
俺はそんなドストミウルの視線を跳ね飛ばすように笑顔でそう言い放った。
「...」
ドストミウルの視線が何かを訴えているような気がしたが、気にしないでおく。
「人間が屋敷にいるというのは、落ち着かないような気もしますが…主の名とあれば従う以外の選択肢はございません故。」
ゲイルは無い頭を下げたみたいで、肩が少し前に動いた。
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