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街へ行こう!②
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ドストミウルに手を引かれて最初に訪れたのは武器屋だ。広い店で人口密度は少ないものの、何せ冒険者が多い。俺も冒険者をしていた時期もあったし、顔見知りに会ったらどうしようかと思って足取りはさらに重くなった。
「...吐きそう。」
「吐いてから行くかね。」
「んー。」
武器屋の前で二人で佇む。
冒険者の姿を見るのは嫌だ。だって俺を裏切ったアイツらを思い出すから。
だけど、武器屋はある意味俺も1番行きたい場所だった。
ドストミウルは、俺が口元を抑えていない方の手を優しく握った。
「弓の場所だけ見て素早く出よう。」
「...うん。」
俺は冷たいドストミウルの手を握り返した。
何だかんだ弓を見ていたら気分が良くなって来て、割と大丈夫だった。
展示されていた弓は安物から珍しいものまであった。いくつか試したことのあるものを見つけると俺はその説明をドストミウルに話していた。
「あれさ、すげー高いわりに使い心地良くねえんだよ。装飾に力入れちゃってて使用感はイマイチなんだ。使い心地で言ったら下の安いやつの方がよっぽどいい、その代わり壊れやすくてな金がない時は何度か買い直したっけな…。俺はあの左上のメーカーのが好きでさ、一回工房まで尋ねて買いに行ったこともあったぜ。家に置いてきたの、もう処分されちまったかな…」
ドストミウルはそんなカノルの話を微笑みながら熱心に聞いていた。
「なっ、何笑ってんだよ。」
「君が楽しそうでよかった。」
ドストミウルが珍しくにこやかに笑っているもんだから、何だか恥ずかしくなった。
「っつ、新しい弦と矢、どうせなら一番高いやつ買ってもらおうかな!」
「ああ、君が好きに選んでくれ。」
腹立つことにドストミウルは金ならいくらでも持ってる。そりゃあ、王と言うだけはあるし、人間からいくらでもせしめている。
「旦那!いい買いっぷりですね。是非ともご贔屓に。息子さんとお出かけですか?」
ガタイのいい店主はニッカリとわらうと帽子を取って頭を軽く下げた。
「まあ、そんな所だ。」
俺はドストミウルの後ろに隠れるようにしていた。息子にしちゃ似て無さすぎだろとツッコミを入れたい所だが、ここは押し殺す。
店を出ると外で待っていたヂャパスに荷物を渡して次の店に向かう。
道を歩いているとドストミウルは数人の女性から声をかけられた。顔がいいのと金持ちそうな服装をしているせいで、まあ腹立つほどにモテるのだ。
別に羨ましいわけでも、嫉妬している訳でもない。ただこんな化け物が俺よりちやほやされるという事に少しだけムカつく...羨ましいのかな。
慣れたように女をあしらったドストミウルに話しかける。
「一人で来てる時はああいう女とデートとかする訳?」
「まさか。そんな無意味なことはしない。」
「へぇ〜、本当に?」
「珍しいアイテムを持っていた女とは遊んだことはある。生きては戻さなかったがな。」
「...こわ。急にホラーだぜ全く。」
かれこれしているうちにつぎの目的地に着いた。
「なにここ?」
「宝石店だ。」
宝石と言っても冒険者が使う装備アイテムの装飾品とは店のレベルが違う。中を覗くといかにも高そうな服を着た貴族みたいなのがウロウロしている。
俺は別の意味で気分が悪くなった。
「アンタってこういうの好きだっけ?」
「いい宝石は魔力向上にも繋がるぞ。さあ、手を繋ごうか?」
確かに手を繋いでくれていた方が安心感はあるがこんな店で男二人手を繋いで引っ付いたまま歩いていたら、化粧の濃いマダム達にどんな目で見られることやら。
「だいぶ調子出てきたから付いてくだけでいいよ。」
「...そうか。」
そう言うとドストミウルは店に入った。
俺も小さくため息をついてから後を追う。
ガラス張りのケースの中には目がチカチカするような宝石や装飾品が並ぶ。ケースの端のなんでもないネックレスの値札を見て顔が引きつった。
「高っ、俺の給料何回分だよ。」
小声だったが心の声が漏れてしまった。
「そんなに高いかね?欲しいものがあったら言うといい。」
「いらねーよ。欲しいもんは武器屋で全部買った。」
「これなんかどうかね、君に似合いそうだ。」
ドストミウルが指したのは紫色の小さな石が埋め込まれているピアスだった。
「穴空いてねえけど。」
「じゃあ、イヤリングがいいかね。」
「だから、いらねぇって。」
そんな言い合いをしていると、ビシッとした高そうなスーツを着た白髭の男が声をかけてきた。
「ミスター!お久しぶりです。ようこそ、お手に取りたいものがあればなんでもお申し付け下さい。しかし、お連れがいるなんて珍しいですね、ええと、ご友人か息子様ですか?」
ドストミウルはここの常連らしく、白髭の店員はにこやかに話しかけてきた。
「フィアンセだ。」
「ばっ!アンタ、冗談でもそれはねぇだろ!」
「ははっ、そうですかそうですか。では、フィアンセ様のお指のサイズでも測らせて頂きましょう。」
焦る俺に対してドストミウルはなんでもないように商品を見ているし、店の爺さんは本当に俺の指のサイズを測ろうと試し用のリングを取り出している。
「ドス...」
咄嗟に名前を呼ぼうとして口元を指で抑えられる。
「グローディアだ。君に指輪の1つでもプレゼントしてあげよう。要らなければ捨てればいい。」
そう、人間の姿をしている時のドストミウルの偽名はグローディア。女みたいな名前だが、割と気に入っているらしい。
ドストミウルという名は魔王四天王の死の王の名としてとても有名だ。たとえ人間の姿をしている彼が名乗ったのしても本人だと信じるものは居ないとは思うが、不吉な名と言う印象が強く使うには向かない。
そんな貴族風グローディア様に押し切られて、いつの間にか俺は全ての指のサイズを測られていた。
「君は確か青が好きだったな?」
「ああ、そうだけど。本当にいらねえって...」
「青でしたら取っておきのサファイアが入った指輪が入っておりますよ。」
「重すぎないものにしてくれ、どの指なら邪魔にならないかな?」
「...右手の小指。」
勝手にいいテンポで話が進むものだから、もう諦め切った俺はそう答えた。
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