アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
時は過ぎている②
-
薄らと陽が山筋に滲み始めた頃、ドストミウルは自らの屋敷へと戻った。
部屋に入ると同居人は部屋の端の窓から外を眺めていた。
「お疲れさん、今日は仕事?」
「いいや、ギャリアーノの城にいた。」
「よくもまああんな面倒なおっさんと仲良くしてられるよな。俺なんか秒で嫌になりそう。」
カノルが動かず外を眺めていたため、ドストミウルはゆっくりとカノルの側へと向かった。近くまで来るとそっと寄り添うように横に並んだ。
「眠れなかったのか」
「ううん、眠くなかっただけ。」
窓からは登り始めた朝日が柔らかく差し込んだ。
「...外から戻った時に、部屋に誰かがいるというのは悪くないものだな。」
「そっか、俺が来る前は誰もいなかったんだっけ。爺さんは昼間もいるじゃん?」
「ヂャパスは部屋で迎えるような事はせんよ。」
「じゃ、俺がいなくなったら寂しくて泣いちゃうね。」
カノルはからかうようにくすくすと笑っていた。
「ああ、本当にそうだな。私は君がずっと此処に居てるれることを望んでいる。」
「居るさアンタが殺してくれるまではね。」
「...君は、」
ドストミウルがカノルの方を見るとカノルは少し笑いながらこちらをじっと見つめてきた。
「なに?」
「...いいや、やめておこう。」
「はあ?訳のわかんないやつ。」
カノルは困ったように笑った。
ドストミウルはその笑顔を見ながらこの部屋から彼が居なくなったら...そんなもしもを少しだけ描いてすぐに止めた。狂いそうな闇の匂いを感じてしまったからだ。
「君は、もしも自分が人間の世界に戻れた時の自分を考えられるかね。」
「考えたくも無いね。その道があったとしても俺はそこに辿り着く前に死んでる。」
「そうか」
カノルは不機嫌そうにドストミウルを睨んだ。
「この期に及んでまだ俺を人間の街に戻そうと考えてる?」
「いいや、思っていない。本当だ。」
カノルはまだ疑いを晴らせないといった表情で小さくため息をついた。
「少し横になろっかな。」
「うむ。付き合わせてすまなかったな。」
「なんで?アンタの話し相手になるのが俺の仕事でしょ?」
仕事、そうか確かにそんな約束をしていたなと昔の事のようにドストミウルは思い出した。
「アンタは?」
「私は、また仕事で出る予定だ。」
「そっか、じゃあおやすみ。」
ベッドに向かおうとするカノルの後ろ姿をしばらく見つめてから、ドストミウルは思わず追いかけてその腕を引いた。
「休む前にひとつ聞きたい。」
「なに?」
カノルは不思議そうにドストミウルを見た。
「君は、今、幸せかね。」
カノルはふっと鼻から小さく息を吹くと笑った。
「お陰様でね、結構楽しめてるし幸せだよ。」
ドストミウルはその偽りのない笑顔に何故か心が締め付けられるような痛みを感じた。
「衣食住完備、3食昼寝付き!休暇希望は通るし、弓も打てる!こんな優良企業ないっしょ?これからも養ってね、旦那様。」
カノルはいつものようにいたずらっぽく笑った。
「ちなみに専属医のカウンセリング付きだ。」
「んー、あー、それは要らないオプションかな」
二人は自然に笑い合っていた。
ドストミウルはカノルに別れを告げると、部屋を後にした。
彼の生活を、笑顔を守る為には今は仕事に励むしなかい。そう考えると一層みが引き締まる思いだった。
ドストミウルは魔王の配下、四天王の一人として今日も人間を殺しに行く。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
33 / 50