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死神先生、人と会う【終】
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「…表裏戦争」
ぽつりと呟かれた言葉に、謎の生き物は驚いて青年の顔を見つめた。
「…驚いたな。その事は覚えているんだね。…そう、表裏戦争が我々と君たち人間の距離を引き離したんだ」
表裏戦争───約400年前に起きた人間と人外の大戦争である。
表裏戦争が起きるまでは、人間と人外はそれなりに共存をしていた。
ある日、人間の同士で内戦が始まり、事態の収拾がつかないほど激化しそうにまでなった。そこで王が人間をまとめあげるため、これまでの戦争の原因を全て人外たちのせいにしたのだ。
もちろん、でっち上げの擦り付けだった。
人外は人間よりも高い身体能力を有するものがほとんどだった。しかし、戦い方を知らぬ人外たちにとって、兵器を使い慣れた人間を相手にすることは不可能に近かった。
人外たちは呆気なく戦争に敗れ、人間の呪術師たちによって別世界へと追いやられてしまったのである。
この歴史から、人外たちは人間を忌み嫌っていた。
「…この世界で君を合法的に生活させるには、私が君を飼わなければならない」
「……!」
「安心してほしい。私は君を道具として使う気は一切ない。元々私は飼い人制度は反対なんだ」
「…どうして…」
「……私はこの国の学校で“人間史”を教えている教師なんだ」
青年は、なれない教科と共に教師という慣れ親しんだ職業を聞いて思わず顔を上げた。しかし、いくら人間が好きだと言われても、ここまでして青年を守る理由が思い浮かばなかった。
「確かに、何も要求せずにここまでもてなされるなんて、疑うのも無理ないね。だから、1つ条件を付けようと思う」
「条件…」
「君を研究させてくれ!」
なかなか感情的にならない謎の生き物が興奮と好奇心で目を輝かせていた。その勢いに、青年が断れるはずがない。
青年は慌てて首を縦に振った。
「やった…ありがとう!おっと…大切なことを教えていなかったね。私の名前だが…周りからは死神先生と呼ばれていてね。君もそう呼んでくれ」
「死神先生…?」
「君は……名前が無いと色々と面倒だね。そうだね…コハクとかどうだろう?」
死神先生は自慢げに青年を見た。
「コハク…?」
「暖炉の火が君の瞳に反射して、綺麗な琥珀色になっていたからね」
「コハク…」
青年の態度を肯定と捉えた死神先生は頷き、すくっと立ち上がった。
そして、今までの雰囲気とは違った声でコハクに話しかけた。
「ではコハク…君を飼い人にするために、少し我慢してほしいことがある」
死神先生がゆっくりとコハクに近づく。
「…痛いと思うが、耐えてくれ」
「え……!?」
するりと、死神先生の手がコハクのネクタイを解いた。その流れでシャツのボタンを外していく。
「あ、えっ、なに、を」
「目を閉じてて」
反射的に、コハクは目を閉じた。
次の瞬間、首元に鋭い痛みが走った。死神先生がコハクの首元に噛み付いたのだ。
「いっ…?!」
「……ん……すまないね。もう終わったよ」
コハクが恐る恐る目を開けると、死神先生に噛まれた箇所から首を一周するように、黒い模様が描かれていた。
「これが飼い人の契約の証だ。通称“首輪”と呼ばれるものだよ。これさえあれば、もう街をコソコソ歩かなくても済む。君は私のものになったという証明だからね」
興味深げに首輪をなぞるコハクに、死神先生は優しく微笑んだ。
「さあ、今日はもうおやすみ。ベッドに案内しよう」
「…うん」
コハクは首に手を当てながら、死神先生の後を着いていった。
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