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「……こんな子に、成宮家が仕えるなんて。」
紡がれた言葉は、氷の刃。
すぐに傑様の耳を塞ぎたくなった。
傑様は賢い。
同年代のこと比べれば、ずば抜けて賢い。
きっとこれから、優秀な方になられる。
これからの日本の会社を背負っていく人材だ。
これでも人を見る目だけは自信がある。
その傑様に向かって、そんな言葉。
実の母親でも許せなかった。
私が、この方を守らねば一。
初めて、俺が執事としての自覚を持った瞬間だった。
今までは、ぼんやりしていた主人に仕える、という感覚。
それが今、はっきりと分かった。
「……やはりお前はうちの落ちこぼれだ。汚点だ。」
あまりに言われ慣れた言葉。
もう、胸が痛むことすらない。
「なりみや。」
凛とした声が、俺を呼ぶ。
「……はい、傑様。」
「おちこぼれ、って、なに?」
「……そうですね、できが悪いということです。」
「おてん、ってなに?」
「綺麗なものの中の汚いもの、ということです。」
「なりみや、わるいの?きたないの?」
純粋な瞳。
この方は、知らなくていい汚い闇だ。
できることなら、一生知らずに生きて欲しい。
「なりみやは、やさしい。やさしくて、つよい。」
傑様は、俺の両親の方を向くと、突然そう言った。
「なりみやは、きたなくない。」
傑様の機嫌が悪い。
怒って、いるのか?
「すぐるは、なりみやのこと、すき。おじさんたちは、なりみや、きらいなの?」
両親は黙ったままだ。
いっそ、嫌いだと言ってくれ。
いらないと。
「おじさんたちが、なりみやのこと、いらない、っていうなら、すぐるがもらう。」
その言葉に面食らったのは、両親だけではなく俺もだった。
「すぐるは、なりみやのこと、きたないって、おもわないもん。すぐるは、なりみやのこと、すきだもん。」
拙い語彙だけれど、それでもその瞳だけはまっすぐで。
「なりみやのわるぐち、いったら、すぐるがゆるさないから。」
あぁ、この方は。
この方こそ、私の主人。
「いくぞ、なりみや。」
「……はい。かしこまりました。」
思わず緩んでしまう頬。
この方に出会えてよかった。
私と傑様は、この先一生、執事と、主人だ。
そんなことを思っていた俺と、大人になり、様々なことを知った傑様が、執事と主人ではなくなる日が来るのだけれど……
それはまた、別のお話。
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