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あれは何時だったか。
スーツを着た男性客が今日と同じ様にやって来た。
緊張した面持ちで何処かそわそわしていて、落ち着きがない。
まぁ、注文を聞けばその理由も解るが。
「これから、彼女にプロポーズするんです。
真っ赤なバラが欲しいって言ってて…受け取ってくれますかね…、」
大丈夫、なんて無責任な事は言えない。
だけど、大丈夫であって欲しい。
「ご成功する事を祈っています。」
「ありがとうございます。
頑張ります…。」
ラッピングペーパーとセロファンで包み、最後に彼女さんが好きだと言うピンクのリボンを結んだ。
嬉しそうな顔をして花束を抱えて大切な人の元へ駆けていくその背中を見送ったのはまだ夜の初めの事だった。
どうか、良い夜になりますように。
「店長、お疲れ様でした。」
「龍生くん、お疲れ様。
雨降ってきたから気を付けてね。」
店から出ると霧雨が降っていた。
音もなく傘を濡らす雨で視界がぼんやりとする。
だけど、歩き慣れた駅へと向かう道だ。
ぼやけてたって歩ける。
水溜まりを踏んだらしくスニーカーがくちゃっと嫌な音をたてた。
うわ、水溜まり踏んじまった
さいあ、く…
薄暗くて霞む視界の筈なのに、ゴミ箱に突っ込まれた見慣れたリボンがいやによく見える。
ピンクのリボン。
パシャっと水を踏んで近付くと“ソレ”が何か解った。
あぁ、徒花になったのか…
真っ赤なバラがゴミ箱の中で霧雨に濡れて泣いていた。
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