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側室の様子がおかしい。
日に日にやせ細り、表情が無くなっていく。
十分な部屋と食事は与えている。
それなのに、あのルナとかいう男は少しも喜ばない。
どうにかしろ、とカイに言いつけ、洋服をたくさん贈っても、彼の表情は晴れなかった。
宝石も、書物も、何一つ彼は喜ばなかった。
アリエルなら、そのどれもを喜び、俺に笑ってくれたのに。
いや別に、あいつに俺に向かって笑って欲しいわけではない。
ただ、喜ばないのはなんなのか。
この国は男だろうと女だろうと服は自由だし、男が女物を好もうと、その逆だろうと、なにも問題は無い。変な目で見られることも無い。
だから、男物ばかり用意したのか気に入らないのかと、女が好むような可愛いものも集めて部屋の内装を変えさせたが、彼はそれに何も言わなかった。
……と、ディランが言っていた。
そろそろ倒れそうだとディランから聞いた。
それほどまでに、痩せてしまったらしい。
確かに、俺が見ても痩せたとわかるのだから恐らく相当なのだろう。
以前は部屋から出ることもあったようだが、最近はそれも減っているらしく、毎日窓の外を眺めて、一日をすごしているそうだ。
煌びやかな服に腕を通すことも無く、豪華な宝石を身に纏うことも無く、書物を手に取ることも無く、食事もほとんど手をつけず。
時々やってくる小鳥を見ると、少し嬉しそうにするらしい。
動物か。動物がいいのか?
そう思って、欲しいペットを聞けと命じたが、何もいらない、と返ってきた。
部屋にこもり始める少し前に、彼はディランに言ったそうだ。
俺がいない方が、みんな幸せだ、と。
それを否定することはできない。
あいつは俺とアリエルの邪魔をした。
あいつがいなければ、もっと早くアリエルを妻に迎えられたし、楽させてやれる。
だが、アリエルが追い出すな、というのだから仕方ない。
彼女は優しい。
少し優しすぎると思うが、それでも彼女の意向には従ってやりたい。
その優しい彼女が、今のあいつを見たら心を痛めそうだから、何とかしようとしているといのに。
正直もう、お手上げだ。
側室になにか施してやるのも限界。
もう、いいだろう。
*
「……ふふふ、いいわ、もっと弱って。」
ヴァネッサの部屋、光る水晶に映るのは、弱り切ったアリエル。
アリエルをこの城に残したのには理由があった。
ヴァネッサの本当の目的は、アリエル自身。
この国の女王になることも確かに目的ではあった。
エリックを我がものにしたいという思いもあった。
けれど、それを遥かに上回る大きな目的。
「さぁ、アリエル。打ちひしがれなさい。現実に絶望しなさい。」
間近で、エリックや皆が変わってしまったことを見せ付け、絶望させる。
「そして、涙を……!」
絶望の涙。
果たしてそれには、なんの力が宿るのか。
「ふふふふ、あははは、あはははは!!」
高らかな笑い声は、部屋に張られた魔力に吸い込まれて消えていった。
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