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「……ルナ。」
極力優しく、呼びかける。
アリエルは、嘘を言っていないにしても誇張しているようだ。
そうでなければ、ルナはこれほど泣かないだろうし、破片を握りしめなどしない。
「何があったか、俺にはわからない。だがな、母から貰った大切なものは、他にもたくさんある。これはそのうちの一つにすぎないし、なによりもこれは、物だ。いつか壊れて、なくなるものだ。」
膝を折り、ルナに目線を合わせる。
エメラルドの瞳は、涙で濡れている。
「母から貰った何より大切なものは、愛情だ。それはなくなることはないし、他人にも奪えない。」
ルナがそっとこちらを見る。
その瞬間にも、涙は零れ、床に花びらが散らばった。
「俺はいつか無くなるそんなものより、母から貰った愛情を大切にしたい。だから、お前が傷つくことは、望んでいない。その手を、開いてくれ。な?」
目を涙でいっぱいにして、それでもやっと、ルナは手を開いてくれた。
「ディラン、手当の道具を。」
「はい、かしこまりました。」
ディランがすぐに塔を出ていく。
ルナの手をそっと掴んで見る。
「……くい込んでしまっているな。痛いだろう?なぜこんなことをした?」
小さな破片は皮膚に刺さっていて、あちらこちらに傷ができている。
「……っ…」
「怒らない。だから言ってみろ。」
「えりっ、く、様がっ……せっかく、おれ、に……甘えて、くださっ、てっ……おしえて、くださっ、てっ……たいせつなっ、もの、っを、あずけて……くれたっ、のに……」
「……それを、壊してしまったからか?少しでも、かき集めようと?」
コク、と頷くルナ。
もう、愛しくて、胸がぎゅっとして、たまらなかった。
そっと抱きしめ、優しく撫でる。
「……今は、その望遠鏡よりも大切なものが、他にある。」
「……ほか、に…?」
「ああ。」
ルナと目を合わせて、垂れてくる涙を指で拭う。
「俺の大切なものは、お前だ。」
ぎゅっと唇を噛んだルナが、また涙を零す。
それは、花びらになって、しかし次に零れたのは、宝石になった。
「…………宝石の、意味は……なんなのだ…?」
これが、拒絶だったらどうしようか。
さすがに、俺もショックだ。
「……っ、嬉しい、気持ちですっ……」
そう言われて、顔が綻んだ。
「そうか、よかった。」
ルナを抱きしめる。
健気でいじらしいこいつを、しっかり守らねばならない。
俺は、そう思った。
「いつ、入りましょう……」
「そうですね、もう少し、お二人でいさせてあげましょう。」
とっくに戻ってきていたディランとカイ。
はやくアリエルの手を治療してあげたい気持ちと、2人のムードを壊したくない気持ちで、複雑であった。
「……しかしサンディーはずるいな。2人のいい雰囲気を察したら、自分から塔を出ていった…」
「ふふ、本当に賢い犬ですね。」
2人はもう少し、塔の階段で待たねばならない。
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