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「なんだ……?何が起きてる?」
城から聞こえた爆音に、街はざわついていた。
「あの魔女は?!アリエル様はどうなさったのだ?!」
国民たちの話を聞く限り、エリックの記憶が戻ったことは間違いない。
エリックの記憶が戻ると、国民の記憶は戻ると言っていた。
今、国民たちは魔女の存在を認識している。
「アリエル様はご無事なのか?」
「エリック様は?」
「城はどうなっているのだ?」
不安を口にする国民たち。
俺も、その中にいるしかなかった。
海に異変を知らせようにも、何が起きているかはわからない。
かといってアリエルの元に向かうのも軽率すぎる。
「呪いじゃ。」
凛とした声に、街のざわつきは静まる。
「あれは、我々のせいじゃよ。」
「……おじいさん、どういうことですか?」
1人の女が、仕立て屋の老父に尋ねる。
「アリエル様は、人魚姫の子孫。そして、特別な力を持って生まれた子じゃ。その子が絶望を感じた時、この国は滅びるのじゃよ。」
「それじゃあ、あの黒いのは……」
城の窓を突き破る茨。
国民は皆、視線をそちらに寄せた。
「……アリエル様じゃ。」
「そんな……!」
「あのお方が、そんなことをするはずがない!」
「そうだ!誰よりも人を愛している方だぞ!」
「我々は、そのお方に何をした?愛を注いでくださったあのお方に、愛を返したか?」
老父の言葉に、国民が押し黙った。
「……こうなっては、手遅れなのじゃ。我々は、何も出来ん。」
「……まだ、遅くない。」
気がついたら、口を開いていた。
「遅いわけがない。あいつに、伝わらないわけがない!」
この国の誰よりも長く、アリエルを見てきた。
心優しく、愛を忘れることのなかったあいつに、伝わらないわけがない。
城の門ギリギリのところまで走る。
「アリエル!!アリエルー!!!」
聞こえてくれ。
わかってくれ。
願いを込めて、叫んだ。
「……そうだ、そうだ!!アリエル様なら、わかってくださる!!」
「そうよ!今からだって遅くないわ!」
「魔女なんかに負けないわ!!」
「そうだ!呪いなんか跳ね除けてやれ!」
「アリエル様ー!」
「アリエル様っ!!」
アリエルを呼ぶ声は、次第に大きくなり、いつしか街全体に及んだ。
「……アリエル様、これがこの国の、民の声ですぞ。」
仕立て屋の老父は、祈るような眼差しで城を見つめる。
この老父は、国民たちを信じ、なによりアリエルを信じていた。
魔女が知らない、呪いの続き。
「アリエル様、どうか、どうかお気づきに。」
人魚姫『アリエル』の子孫のうち、特別な力を持って生まれた子、その力を使いし時、泡として消える。
愛を忘れ、絶望したその時、子は力を発揮し、国は滅びる。
「貴方様は、愛されているのですぞ。」
老父の声は、アリエルを呼ぶ国民の声の中に、消えていった。
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