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「アリエル。」
大泣きするアリエル様を呼ぶ声。
その方は、我々もよく知る人物。
どこにもなかった水が現れ、その上にいる。
「お、と……さまっ…」
アリエル様のお父上で、海の国の王、ポセ様。
強力な魔法を扱うことが出来る、まさに支配者。
「……その男を、助けたいか?」
「っ、できますかっ……?!なんでもしますっ、たすけてっ……」
ポセ様は、特に表情を変えることなく、口を開く。
「お前の力は、まだ残っている。その力を、お前の涙一粒に、凝縮させることは出来る。」
それが何を意味するか、分からないほど我々はマヌケではない。
「いけません、アリエル様。」
気がつけばそう言っていた。
「それが何を意味するか……お分かりになるでしょう?」
「そうですよっ、アリエル様……!そんなこと、私っ、お友達として許しませんっ!」
「アリエル様、ご自分を犠牲にされるのは、もうやめてください。」
「そうですよアリエル様!」
「アリエル様、それだけはおやめに……!」
キャンディ、カーティス、ほかの使用人達もアリエル様を止めようと、口々にそう言った。
「……おれ、ね…もう、エリックのいない、生活は、したくない。」
静かに紡がれる言葉に、皆黙り込んだ。
「……もう、この人がいないと……だめなの。」
困ったように笑うアリエル様。
なにも、言えなかった。
「……でも、ダメですっ…ダメです……!」
キャンディがボロボロ泣きながら、そう言う。
「絶対に、いけませんっ……!カイ執事長……!カーティス……そうでしょう?ねぇ……」
なにも、言えないのだ。
アリエル様が、幸せになるには、エリック様が必要なのだから。
「ディランっ……あなたも、とめてよぉ……!」
今まで押し黙っていたディランが、顔を上げる。
「……私、は…エリック様ではなく、アリエル様に、お仕えしております。」
ディランの声は、震えていた。
「ですから、私の主人は、アリエル様でこざいます。アリエル様が、そうせよ、と仰るなら……私は、従います。」
「っ、ディラン!」
「……キャンディ、私の主人は、アリエル様だ。それは、譲れない。」
ぎゅっと拳をにぎりしめたディランの気持ちは、痛いほど伝わってきた。
主人に従いたい気持ちと、主人を守りたい気持ち。
それはどちらを選ぶことも出来ない。
「……ディラン。」
「…はい、アリエル様。」
「俺の意思を、尊重して。」
「…かしこまりました。」
「ディラン!!ねぇ、そんなのダメだって!!アリエル様!!」
「……お父様、お願いします。」
「……良いのだな?」
「はい。」
ポセ様に笑ってみせるアリエル様は、穏やかだった。
止めようとするキャンディやほかの使用人達を、ディランはしっかり抑えていた。
それは、アリエル様の最後の命令に、背かないため。
ポセ様が魔法をかける。
アリエル様の、涙が落ちる。
ディランは、そのすぐ後で、アリエル様に駆け寄って、その体を強く抱き締め、泣いていた。
誰も、ディランを責められるわけがなかった。
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