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Don't disturb×紅柿
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*夏目翼と愚か者の話−1
『Don't disturb』という短編に目を通していただければお話わかりやすいかと思います。
(菫と出会う数年前の時間軸です)
男は殺害された。
それも、彼を最も愛していたであろう恋人に。
へにゃりとおかしな方向に曲がった首には
はっきりと手の形が浮き出ているのだから、殺害方法は明らかである。
私には愛する者を殺める気狂いの気持ちはわからない。まあ、そもそも人のような浅はかでつまらない者の心など、わかりたくもないのだが。
「ひえ〜、堪らんわぁ。なぁ紅薔薇、今夜のご馳走は豪華やねぇ……なぁにコレ、食べ放題なん?」
「何処まで私を呆れさせれば気が済むのだ貴様は。」
私はどんなに迷惑を被ろうと、手を焼かされようと
私の知る限りで最も狂ったこの男…かきつばたを殺めようなどとは思わない。
「だってぇ…この隣で首吊ってるんはコレ殺した恋人♡なんやろ?」
「あぁ…そうだが。」
本日最後の仕事は、絞殺された夏目翼という男を上へ導くだけ……の予定であった。
それなのに。
動かなくなった彼を目の当たりにし、男が瞳から光を消したのは突然で。
“死んじゃったの…?え?嘘だよね、どうして俺を置いて行くの?
俺1人じゃ歩く事も出来ないんだよ……ねえ、翼。返事してよ…翼……。”
おかしな生き物の考える事はやはりおかしな事らしい。
床を這って散乱した衣服の中から引っ張り出したのは高級ブランドの本革のベルト。
それを何の躊躇いもなく自らの首とドアノブに括り付けるのだから大したものだ。
「はぁ…堪らんわぁ。やっぱりまずはコッチのタッパある方やろ。」
だろうな。
知りたくもない事ではあるが、私はかきつばたの好みをよく知っている。
行為に耽る時、どんな顔つきかを見れば簡単に予想がつくのである。
だが、いざ事を始めようと熱を帯びたかきつばたの表情が
ほんの一瞬強張ったように感じた。
「……あぁ、何なんコイツ。片足無いやん。」
「そう…みたいだな。」
よく見れば、首を吊った男の膝下は無く
不自然にジーンズが折れ曲がっている。
それも片方だけ。
「まぁええけど。どうせやったら五体満足のええ身体のがよかったわぁ。」
「はぁ…お前という奴は本当にどうしようもないな。」
「んっふふ、しゃあないやろ?いい加減紅薔薇も慣れたんとちゃうん?」
五体満足の、貴様よりも背の高い男がここに居るではないか。
そうは思うも、こやつの狂った性癖をいやというほど知らしめられてきたからこそ、私は未だこの想いを告げられずにいる。
「……ほんなら…いただきまーー…。」
かきつばたが男の腰に触れたその時だった。
「おい…何、してるんだ。離れろ、今すぐ僕のなおから離れろ。」
殺気めいた視線にいち早く気付いた私は
かきつばたの身の危険を察知し慌てて声の主を捕らえた。
彼は…いや、彼の魂が創り出した結晶というべきか。
ふわりと身体を浮かせた夏目翼の影は怒りを露わにし、鋭い目つきでかきつばたを睨む。
勿論、人間の力
それも死んだ者の魂が持つ力など私達死神の仕いには到底及ばないものであるが、それをわかっていても身体が動いてしまうほどだったのだから、彼の怒りは相当なものなのだろう。
私の腕の中で暴れる獣と化した夏目は、先程から彼を殺めて命を絶った男の名を何度も何度も叫び続けている。
「なおに何かしたら僕が許さない…なお!なお、起きてよなお、なおぉッ!!」
さてはこの人間、自分が死んだことに気がついていないな。
突然の邪魔者に、いくらかきつばたといえども昂る気持ちは落ち着きを取り戻したようで。
これ見よがしに大きくため息をついてみせた。
「何やねんお前。ほんま気分悪いわぁ…。
折角お前だけは上へ導いたろ思っとったんに連れてったる気ぃ失せたわ。」
紅薔薇、そいつ頼むわ
それだけ言うと、かきつばたはつまらなそうに自身の艶やかな白銀の髪を指で弄ぶ。
生前、大きな罪を犯した人物。
又は自ら命を絶った人物が導かれるのは、いかなる理由があろうと永久の苦しみを強いられる地獄と決まっている。
そのどちらともを犯した首吊り男の末路は簡単に想像がつく。
そして、日々繰り返される暴力に耐え、献身的に恋人を支えた夏目の逝く先も。
だが、私たちの会話を聞いていた夏目は
ぱたりと動きを止めると、ヒュッと喉から渇いた音を鳴らした。
「…僕は、何処へ行くの…?なおと離れ離れになるの?」
既に夏目の目は、かきつばたに飛びかかるような光を失っていたので
それまで掴んでいた腕の力を緩める。
ようやく解放された彼が一番に向かったのは、なんとドアノブに結ばれたまま動かない男の元だった。
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