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3月1日
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高校三年間は、本当にかけがえのない大切な時間だった。
親友と再会出来て、毎日声が聞けて、いろんな話も出来た。
2年生以降、メノウは特進クラスの担当だった。
2,3年は特進クラスと標準クラスに分かれるうちの高校。入試は自己採点でも割とギリギリのラインだった僕だが、メノウと一緒に居る時間を1分1秒でも逃したくなくて猛烈に勉強した。
そして見事3年間通してメノウの学級に居続けることが出来たのだ。
でも、それも今日で最後。
雲一つない空と、少し冷たい春の風。
今日は卒業式だ。
本当は登校時間はもっと遅いけど、何だかその日は落ち着かず
いつもより早く家を出た。
変わらない通学路、変わらない校舎、生徒とすれ違わないのは早く家を出過ぎたせいだ。
そして―――。
「安芸?早いな。おはよ。」
「メノウせんせー、おはよ!ゆか先生も!」
「安芸君、おはよう。」
いつもと変わらない、メノウ。
メノウには、もうすぐ結婚する彼女がいる。
ゆか先生もこの高校で先生をやってる。
去年から同棲しているらしくて、
それからはほとんど毎日一緒に学校に来ていた。
背が小さくて髪が黒くてサラサラのロングで、
いい匂いのする可愛らしい先生。
今ではメノウより大きくなってしまった身長、
元々色素が薄くてくすんだ茶髪の僕なんかより、
よっぽどメノウにお似合いだ。
「安芸?何か元気ねーな。」
クシャリと僕の頭を撫でて顔を覗き込んでくるメノウの瞳は、ビー玉みたいに透き通って、南風になびく髪は太陽の光を含んできらめいている。
この3年間で痛い程実感した、
メノウに対する”好き”の気持ち。
今日でメノウの顔を見るのも最後だなんて
自分の脳内が勝手に考える事を拒否するくらい、
信じたくなくて息苦しいのに。
よりによってゆか先生と隣同士のタイミングで遭遇してしまうなんて僕もいよいよ運が悪いと認めた方がいいのかもしれない。
もし僕が、ゆか先生みたいに小さくてかわいい女の人だったら、僕もメノウと付き合ったりできたのかな。
出会わなきゃ良かったのに、ゆか先生と。
これまでに何度も何度も考えてきた良くない事が
また頭の中によぎる。
僕に勝ち目がある頃まで遡るなら、
メノウは一体いくつなんだろう。
「安芸?」
「あ、ううん!なんでもないよ!
メノウ先生にもう会えなくなるのかーって
ちょっとショック受けてただけーっ!」
メノウは僕の表情の変化にすぐ気付く。
3年間も担任を受け持ってくれていたら
特に珍しくもないのかもしれないけど、
僕の考えを読み取られそうで、少しだけ怖くもあった。
だから、僕は精一杯笑う。
”ちょっと”どころじゃない寂しさと、
100%叶わぬこの心を隠すように。
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