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―瑪瑙side―
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何かと気に掛けてしまう生徒がいた。
その生徒との出会いは衝撃的で、今でも
昨日の事のように、鮮明に思い出すことができる。
彼の名は、安芸斗真。
昔ほんの1ヶ月間だけ飼っていた焦げ茶色の猫に
そっくりだった。
色素の薄い安芸の髪の毛は、少し硬いあいつの
毛並みとよく似ていた。
安芸は頑張り屋さんで、高校入試の成績は正直
ギリギリのラインをくぐり抜ける程度の学力だったのが、
1年、2年と経つうちにみるみる成績は上がり、最後には
学年順位1桁は当たり前のようになった。
元が良いだとか、勝てるわけがないだとか
生徒達はそんな事を安芸に言っていたようだけど、
それは安芸の努力を知らないからだろう。
お前らだって元々は安芸の成績を余裕で上回ってた。
安芸のテスト順位を大っぴらにする奴らには、いつもそう言ってやりたかった。
誰よりも努力家で、担任の俺によく懐いてくれる
可愛らしい奴だった。
身長は抜かされてしまったけど相変わらずの
屈託ない笑顔にはいつも癒やされた。
そんな安芸も今日で卒業してしまったかと思うと
やはり寂しい。
安芸の進路は全て獣医学部のある大学だった。
進路指導の担当としてまだまだ未熟ではあったが、幸い
その手の学科は自分の母親が詳しいのもあって
だいぶ力になってやることができたと思う。
安芸の事は特に可愛がっていた事もあり、
出来る所まで頑張って欲しいと切に願う。
「瑪瑙?まだ仕事、片付かない?」
ふいに声をかけられ、ハッとする。
相手は同じく今年度の卒業生を受け持った教師であり、
婚約中の恋人だった。
「いや、終わってるよ。ちょっと黄昏れてた。
…そろそろ帰るか。」
いくつも貰った手紙や花束を、俺もゆかも両手に抱え、
ろくに前も見えないまま職員室を出ようとしたその時。
「あ、宮原先生〜!お手紙落ちましたよ〜!」
パタパタと走り寄って来る教師が、1枚の封筒を持ってきた。それは男から貰ったものにしては可愛らしい柄をしていて、でも宛名は黒のボールペンでシンプルに書かれたもの。
これ、安芸の――…。
その時、何故そこで手紙を開いたのかは分からない。
普通なら、こんな大荷物を抱えているんだから
せめて家まで我慢できただろうに。
でも、直感的にその封を今すぐ切りたいと思ったんだ。
そして、それは正しい選択だった。
⑅∙˚┈┈┈┈┈┈──────┈┈┈┈┈┈˚∙⑅
メノウ先生へ
先生が小学生のとき、怪我した猫を拾った
木の下に来てください。待ってます。
安芸
⑅∙˚┈┈┈┈┈┈──────┈┈┈┈┈┈˚∙⑅
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