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agate
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「…っはぁ、はぁ、あ…安芸?」
綺麗なスーツで綺麗な革靴で、似合わない汗をかきながら肩で息をするのは、僕の高校三年間をすべて捧げた人だった。
「メノウ先生…来てくれたんだ。」
手紙を渡してから6時間と少し。
先生の仕事がいつ終わるのか、僕には皆目見当もつかないけど、そこそこ暗い時間に終えて、そこそこ疲れて帰るんじゃないかと思う。
辺りを見渡したけど、メノウの車はどこにも見当たらず、ゆか先生の影もない。
「メノウ先生もしかして、学校から走ってきたの?」
「当たり前だろ…っ、この時間じゃ走った方がまだ早く着くわ。」
確かに、公園のすぐ脇にある道もだいぶ混雑しているし
少し先に見える大通りなんてさっきから同じ車がずっと同じところで止まっている。
それをわかっていたとしても、一生徒のために
走りにくい靴でわざわざここまで走ってこようとは思わないだろ。
本当、そういうところ…大好きだなぁ。
「そんな事より何で猫の事知って…ってか直接言えよ!
手紙なんていつ見るかもわかんねーだろ!」
「来なかったら、それでいいと思ったんだ。」
夕方、というよりは夜に近い
だいぶ冷え込んできた7時前。
もし本当にメノウが来たらどうしよう
伝えるタイミングが来てしまったらどうしよう
そう思って少し前までは心臓がドキドキとものすごい速さで働いていたというのに、いざ、その時が来てしまうと驚く程静かになる。
人の身体って不思議なものだ。
「…僕が入学式に倒れたの、覚えてる?」
「あ?まぁ…あんな経験、教師生活で初めてだったし。」
まだ少し困惑しながらも応えてくれるメノウと目が合う。
今度はしっかり、彼の目を見て話すことが出来ている。
僕はブランコに座ったままメノウを見上げていたけど、
メノウはすぐに膝を曲げて僕と目線が合う高さまで屈んだ。
僕は目線の高さなんて特に気にしたこともないけど、
メノウはそういう細かいところまで気にしてくれて
僕を見下さない様に、常に見上げるか同じ目線で話をしてくれる。
一人の生徒として、すごく大切に育ててもらったと思ってるよ。
そんなメノウの事、僕は先生以上の感情を持って見てた。
だからね、これから話す事、
別にメノウに信じてもらおうだなんて思ってない。
でも、数えきれない”ありがとう”を言葉できちんとメノウに伝えたいから。
「あの時メノウって名前聞いたら急に頭が痛くなったの。それで全部思い出したんだ、前世の記憶…。」
「…は、前世?」
覚悟を決めて大きく息を吸えば、入って来る空気は
春の季節なんて微塵も感じさせない程冷たくて。
「僕は、この場所であなたに命を助けてもらいました。」
少しだけ、声が震えてしまったかもしれない。
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