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「僕は、この場所であなたに命を助けてもらいました。」
「…は?お前何言って…」
「僕はここでメノウ先生に拾われた猫なんだ。
信じられないと思うけど…
agateって名前を貰った事も、…ちゃんと憶えてる。」
しばしの沈黙。
意を決して口に出した言葉は、メノウには
到底信じ難いものだと思う。
淡々と早口で話し終えれば、メノウはやっぱり
僕の予想通り目を丸くしてその場に立ち尽くしていた。
…当たり前か。
いきなり、3年間担任していた生徒が
十年以上も前に飼っていた猫の生まれ変わりだとか言われても
そんな夢みたいなことがあるわけないもんな。
…あ、自分から言っておいて今すごい恥ずかしい。
絶対に頭のおかしい奴だと思われたに違いない。
信じてもらおうだなんて思わないけど
なんなら引かれるやつだ、これ。
多分、僕がメノウの立場なら
突然訳の分からない事を言い出す生徒に困惑して、
そして最後に結論を出すんだ。
こいつに、関わらなければよかった、と。
「…驚かせてごめん、別に信じてくれなくても―――。」
「agateなのか…?本当に、agate……?」
そこそこの成績で、そこそこの大学を出て
そこそこの未来を掴もうと生きていた僕。
人に言われた事こそないが、自分でも自覚するほど他人に執着心がない。
一人の方が何でも自由にできて楽だったから。
だから、こんなことを言うと呆れられるかもしれないけど、3年間クラスで時間を共にした親友と、今後一生会えなくなるかもしれなくても、涙の一つも出なかった。
それくらい、冷たい人間だったはずなのに。
「……っ信じて、くれるの…?ぼ、くの事……。」
息が上がって、発する言葉は途切れ途切れで。
なけなしの意地で、涙が外に溢れないよう、
上を向いて瞼に溜めた。
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