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ヒトと獣と 17
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当然中洲では大騒ぎになっていた。
アキラがいないことに最初に気づいたのはクヌムだった。
寝室にいない事に怪訝さは感じたがアキラならさもありなんと老女に報告する。
退屈して、また子供らに混じって遊んでいるのだろうと鰐王らには報告しなかった事が事態を混乱させる。
夕餉近くになっても戻ってこない…
一気に緊迫した空気に包まれ鰐王が捜索を開始する。
早い時期に、今日は子供らとの接触がなかったという事。
それどころか見掛けた者が一人もいない事が判明した。
セテフが、最近は滅多に人前で獣化しなかった彼が、3mを超えようかという大ジャッカルに変化し、飛び出して行った。
黒獣が疾走する。
鰐王セベクが悲愴な顔つきで捜索の指揮を執っている。
河での捜索、イコールそれは遺体捜索にあたる。
もし今現在水の中にいるという事は…
それは…
そこにもたらされたセテフからの情報は、鰐館からかなり離れた河べりでアキラの匂いが消えていると。
水辺から数m離れているので河には落ちていないだろうと。
そして、ある“ 鳥 ”の臭いを嗅ぎわけたという事。
早速、待機していたデンウェンが呼ばれトートとは連絡が取られる。
隼人ホル。
中洲の土地に確かに残された痕跡はあるひとつの事実を示している。
ホルによる拉致。
「正式な夫君なのに何故⁈ 」
トートの第一声はそれだった。
先日のシリスの件、あれも拉致紛いだと責められてもおかしくなかった。
相当なダメージを負っていた筈のアキラがシリスを庇ったという。
そしてその時のアキラの苦悶の様からシリスはアキラが処女だったと思い込んでいるという。
『馬鹿らしい。』
アキラの身体からはセテフの匂いがプンプンしていた。
それにアビスとのあのやり取り。
アレを見て何処が初物だと?
『ヒトという生き物は一体どんなオツムをしているのでしょう? 』
日出の時間が近づき辺りが薄明るくなった頃、蛇竜デンウェンが【原初の森 】に到着した。
トートのツリーハウスで落ち合った二人は踏み込むタイミングを図る。
「本当にいるのか? 」
「ええ、いますね。」
アキラ…
無傷で取り戻さなければならない。
ホルは屋外の気配を随分前から感じていた。
腕の中で眠っているアキラを抱き締め額に口づけを落とす。
『もう二度と逢えないかもしれないな。』
後悔はない。
今、この瞬間命すら手放しても悔いはない。
自分の髪に絡みついた繊手を、名を呼んだ声を、自身を受け入れた身体を、すべてをこの胸に閉まって…
音を立てずに押し入って来る気配に我に返ると、トートとデンウェンがこちらを伺っている。
“ 静かに。”と合図を送ると二人は頷いてくれた。
こちらが恭順の意を示せば大立ち回りは避けられるようだ。
助かる。
このまま、アキラは中洲へ帰り俺との事は夢だったとでも思って忘れてくれればいい。
俺はもう一度、その華奢な身体を抱き締め僅かに開いた唇に口づけると、デンウェンにアキラを委ねた。
“ 愛しいひとよ、さらば。”
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