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悪魔の恋情、死神の慕情 32
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ヘデデトは緊張していた。
“ らしくもない…… ” と自嘲する程に。
巨大な鷹の背の上で顔を強張らせているのは風圧のせいだけではない。
今日という日をあれ程待ち望んでいたというのにいざとなると……恐れが先に立つ。
自分は、厭われるもの……
畏怖されるもの…… 蠍王ヘデデトだ。
あの子に嫌われるかもしれない。
怖がられるかもしれない……
“ ゾクリ ”と、今までに感じた事のない感覚に襲われて、ヘデデトは思わず胸を掴んだ。
冷たい、冷たい塊に胸が押し潰されそうになる。
このような状態になるのは生まれてはじめての事だ。
「……すまない、この辺りで降ろして欲しい。」
もう、中洲には到着していた。
だが本来の着陸地点、鰐館の中庭までは距離がある。
ヘデデトが降りたのは鰐王の私的なスペースに近い果樹園の端だった。
新しい旦那様を迎えるのだと、機嫌の悪いセベクに言われて、この中洲に戻って来たのは昨日。
セベクとの水入らずの夜を過ごして、今朝は僕以外の者はセベクも含めて忙しそうに立ち働いている。
“ つまんない…… ”
もとよりアキラを部屋に閉じ込めておけるとは思っていないセベクは、寝所の外の中庭からお気に入りの河辺までのそぞろ歩きを許して行った。
アキラは気づいていないが数人の護衛の “ 監視 ”の目が光っている。
河の中ではハニ自らが警戒していた。
僕の新しい旦那様は、この間デンウェンに連れて行ってもらったオアシスを含む砂漠を統べるひと。
どんなひとなのか……セベクは口を噤んで教えてくれない。
昨日、アヌビスを発つ時、セティにも聞いてみたのだけど上手くはぐらかされた。
ただ、僕がアヌビスで寝床から出れなかった時に見舞いの品を贈ってくれたひとだと教えてくれた。
……きっと優しい人なんだ。
ヘデデトは、アキラと会うときは普段より若く、そして身長もアキラに合わせて幾分低く変態するつもりでいた。
すべてはアキラに威圧感を与えない為。
親しみやすさを与える為だ。
その前に気持ちを落ち着ける為、一度本体に戻ってみた。
……ストンと気持ちが……静まっていく。
清浄な空気が身体の中に入って来たように、細胞が生まれ変わっていく。
ヘデデトは暫くの間、その姿のままで居ることにした。
カシャカシャと少し金属質な音をたてて林の中を進んで行った。
客を迎える為の着替えを済ませて、アキラはいつものお気に入りの場所、河辺へ向かっていた。
どこからともなく聞こえてくる、耳慣れないシャカシャカした音。
「 ? 」
首を巡らせて音源を捜していて……
目が合ったもの。
それは体長が3mはある、大蠍だった。
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