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悪魔の恋情、死神の慕情 40
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ヘデデトの微かに震える唇がアキラの額に優しく触れる。
躊躇いがちに口づけたヘデデトに、お返しの口づけを頬にしてふたりは微笑みあった。
実はヘデデトは、少々……いや、かなり緊張していた。
……無理もない。
ヘデデトは今宵はじめて、気持ちの通い合った相手と結ばれる……。
そこそこ歳を重ねて来て(推定年齢70歳位)それなりの経験はあるが、今までは例外なく自分の方に相手に対する気持ちなど無かった。
雄として満足する為に交尾はする。
ただそれだけ……
後顧の憂いを排する為に、終わった後は引き裂いて殺してしまう……
ここ何十年かはその繰り返しだった。
だがアキラは違う。
ヘデデトは今、自分で自分の気持ちを持て余している状態……に近かった。
本人にもよくわからない……
胸がギリギリと締めつけられる。
言いようのない不安感に襲われる。
そわそわと落ち着かない。
何よりも大切にしたくて、優しくしてやりたくて堪らない……
こんな自分を受け容れてくれた……
“ 愛してあげる ”と言ってくれたアキラと結ばれる……
その胸は悦びに震え、尚且つ雄自身は愛しいものを求めて滾っている。
啄ばむような口づけをこめかみに落としながら、その唇はアキラの耳朶を捉え、食み、項を滑って肩口にまで到達していた。
肩を覆っていた薄布を落としてしまって、喉元や鎖骨の窪みに舌を這わせていて……
薄闇のなか、ヘデデトは唐突にそこにある “ モノ ”に気づいてしまった。
「コレ、なに…… ? 」
「え……っと? 」
「ねぇ……コレ、どうしたの? 」
そこにはアビスと初めて会った日に、激情に襲われたアビスによってつけられた……
噛み傷の名残りが白いミミズ腫れ状になって残っている。
食い入るように見つめていたヘデデトの、アキラの肩を掴んだ手に力が篭り、爪が食い込んで痛みが走る。
「いた……い、よ…… 」
「 ! ごめ……ん! 」
ヘデデトの手はすぐに肩から離れ、代わりに口づけが落ちてきた。
「誰にヤられたの?
……って、愚問だね。
アキラの周りにこんな傷をつけられるのは二人しかいないね?
セテフ殿がこんな事をする筈が無いから……あいつだね? 」
「あの……ね。えーっと…… 」
「あの、馬鹿犬…… 」
唸るように吐き捨てた言葉はアキラには聞き取れなかった。
そして、まるで般若のように怒る顔も、抱き締められているアキラには窺い知れない。
「かわいそうに……痛かったはずだよ……
あの馬鹿犬は一度痛い目に遭わなきゃわからないみたいだね。」
物騒な事を言い出したヘデデトにアキラは慌てた。
「もう大丈夫なんだよ?
傷だって殆ど残らなかったし。」
剣呑な光を帯びた眼を隠そうともせずアキラを見つめていたヘデデトは突然、泣きそうに眉を顰めた。
「完璧な造作のアキラの身体をこんな事で損なってしまうなんて…… 」
“ あの駄犬……やっぱり思い知らせてやる。 ”
唇を噛みしめるヘデデトの胸に取りすがって、アキラはゆっくりと話し出した。
「あのね、僕の母の国の格言に【この世のすべての完璧なものは悪しき魔に目をつけられ取り込まれる。
それを防ぐには故意に損なわなければならない。】っていうのがあるの。
だからヘデデトも、僕の傷の事そういうふうに思えばいいんじゃない? 」
無邪気に笑いながら興味深い格言を披露してくれたアキラ。
でもね、アキラ……
それはもう遅かったと思うよ。
……アキラはもう、砂漠の悪魔に魅入られてしまっている……
東の砂漠の悪魔、アポピスと西の砂漠の悪魔でありすべての命を狩る死神……我。
我はアキラを……離さない。
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