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悪魔の恋情、死神の慕情 49
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「えっ……? 」
伏せられていた瞼が開かれ、現れた目は驚愕に見開かれている。
「アキラだって我のこと……憎からず想ってくれているでしょう? 」
憎からずどころでは無い。
この4日間で、ヘデデトはアキラにとってかけがえのない “ 男 ”となった。
だが……
「ヘデデト……僕を困らせないで……。」
ヘデデトはアキラの身体をまるで子供を膝に抱くような位置に変える。
「アキラ……アキラだって我と離れ難いと想ってくれているのでしょ?
それなら…… 」
ヘデデトの言葉を、アキラはその唇で続けさせなかった。
アキラの片腕がヘデデトの首に回り、もう片腕が頬を包む。
ヘデデトの唇にアキラの唇が触れ、言葉を紡ごうと半開きになっていた口を通り抜けて、咥内に桃色の舌が侵入してくる。
アキラからの口づけ……
例えそれがどんな形でも……
懐柔だとわかっていても、ヘデデトは溺れる。
自らの両手でしっかりと抱き締めて、長い長い接吻を交わし合っていた。
暫くの後。
銀糸と共に離れたアキラの顔を覗き込んだヘデデトは、そこに一雫の涙を見た。
「わかってるくせに……
意地悪言わないで……。 」
二雫目、三雫目と零れ落ちていく。
「意地悪じゃない……我は本気だよ?
アキラの為なら何だってする! 」
……それが……アキラがいつも恐れている事。
夫たちが諍い、争い合う原因に自分がなってしまう事……
「そんな事、言って……
僕の身体も心もふたつに裂けちゃうよ……
ヘデデトはそれでもいいの? 」
ポタポタと膝を濡らす涙。
切なげに寄せられた眉の下の目は、蒼い瞳が溶けてしまいそうに揺らめいている。
ふいにアキラは、その掌で顔を覆った。
……嗚咽がもれる。
「ああ…… ‼︎ アキラ! 」
「ごめんね……ごめんね……
アキラを泣かせるつもりは無かったんだよ……
我が悪かったから…… もう言わないよ?
だからお願い……泣き止んで…… 」
今度はヘデデトの顔が泣きそうに歪む。
「ヘデデト……ごめんね……
……ヘデデトの事、大好き。
でも皆の事も好き……
だから……選べないの。
選んじゃ駄目なの……
お願い……許して……。」
今度はアキラがヘデデトの頭をその胸に抱き込んだ。
昼下がりの果樹の下、そこでは二人分の嗚咽が暫くの間、洩れ響いていた。
「相変わらずなのか? あのふたりは? 」
蠍の国の随行員兼外交団の相手に飽き飽きしていたセベクは、アキラたちを護衛という名の監視対象として四六時中張り付いているハニらから報告を……ふたりの親密度を聞かされて辟易していた。
正直、焦れている。
今すぐアキラをとっ捕まえて、衣を剥いて寝所に放り込み、泣こうが喚こうが押さえつけて思いきり犯したい衝動に駆られる。
……泣きながら慈悲を乞うアキラを屈服させて、激情をぶつけるさまを想像して……全身の血が沸騰せんとばかりに滾る。
だが多分……自分よりも先にそれを実行するものがいる……事を敏感に感じ取っていた。
昨夜、ふたりは一晩中離れなかった。
文字通り繋がったまま絡み合い、可能ならば溶け合ってひとつになりたいと言わんばかりの、穏やかな睦合いだった。
アキラにとっても、ヘデデトにとってもお互いが特別な存在だということ……
特にヘデデトにとってアキラはその命そのものの存在になろうとしていた。
鰐館の中庭には巨大な鷹が舞い降りている。
ヘデデトの帰郷。
とうとう、ふたりが恐れていたこの時が……来てしまった。
抱き合うふたり……
その光景を苦々しい思いで睨んでいるものが複数いたが、最後の一刻を惜しむふたりには気にする様子はない。
「アキラ……昨日の果実は美味しかったね?
……我の領地のオアシスのひとつに、とても美味しい果実が採れるところがあるんだ。
近いうちに届けさせるよ。
待ってて……ね? 」
アキラは泣き笑いの表情を浮かべた。
「……ヘデデトが持って来てくれるんじゃないの? 」
また、涙が浮かんでくる。
「アキラ…… 」
向かい合って、両手をそれぞれ恋人繋ぎして、口づけして、そしてふたりの身体は離れた。
「また……ね。」
「なるべく早く、来れるようにするから……我のこと、忘れないでね。」
大鷹が飛び立っていく。
『忘れるなんて……そんな事あるはずないじゃん……
ヘデデトの馬鹿…… 』
ヘデデトの乗った鷹の姿を、見えなくなるまでその目で追っていたアキラの後ろに忍び寄る影。
まったく気配を感じさせずに近づいた “ 彼 ”は、まだ涙を零し続けているアキラをいきなり肩に担ぎ上げた。
「ーーーっ ‼︎ 」
「おかえり……アキラ。」
橡のアビスが獰猛に嗤っていた。
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