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悪魔の恋情、死神の慕情 54
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蛇竜が全速力で上空を翔ける。
広大な大陸の西の端からほんの数時間でクシュに到着しようとしている。
自分自身でも、ここまで速度をあげて翔ぶのは稀だ。
まして今回は “ 客 ”が居る。
普通なら、いくら掌のなかでも耐えられないスピードと酸欠のなか、ヘデデトは本体の蠍姿をとり……啼いていた。
“ 自分が……自分の毒がアキラを傷つけてしまう……
たったひとり、自分を愛してくれたひとを…… ”
鰐館の中庭はおろか、高台の中庭にもデンウェンがこのままの大きさで降りられる広さは無い。
ヘデデトは蠍姿のまま、上空に滞空したデンウェンの掌上から飛び降りた。
その触肢に果物の入った籠をしっかりと抱えて。
「かわいいとこあるじゃん。」
デンウェンは思わず独り言ちた。
……既視感。
以前もアキラが発熱に伏したとき、若い夫が同じように飛び降りて行った……
「俺も顔を見てから次に行こうかな。」
デンウェンが人化しながら降下して来た。
そのとき高台に居たものは皆、我が目を疑った。
濃緑の大蠍が疾駆して来る。
さすがに本人?も突き刺さる視線に気づいたようだ。
ヒトガタをとったヘデデトはバツが悪そうに苦笑する。
そのまま、つい昨日まで滞在していたアキラの館に入り、寝所へ向かった。
そこには見知った顔も、そうでない者も数人が集まっていた。
まずクヌム、ネクベトは初めて見る顔だ。
ヴァジェトは以前会ったことがある。
……だが、何故ここに?
籠を老女に渡して……ヘデデトは褥に近づいていった。
脚が震える……涙が溢れてくる。
ほんの一日半前に愛し合っていた褥に、高熱に犯されたアキラが横たわっていた。
上気した顔に汗が浮かんでいる。
傍の水桶から手布を取り上げて拭き浄めてやった。
その手が震えて……涙が零れ落ちる。
「アキラ……どうして……? 」
「うぅ……っ、うっ……うっ……
うわーっっ! 」
突然、アキラにとりすがって泣きじゃくるヘデデト。
面喰らったのはヴァジェトを始めとした面々だ。
蠍王が泣くなどと聞いた事も無い。
「ヘデデト殿? 」
「我が……我の毒がアキラを苦しめているのだろう?
我の体液に穢されてアキラは……っ! 」
クヌムとヴァジェトが互いに顔を見合わせて吃驚している。
号泣しているヘデデトの元でもアキラは目醒める兆しを見せようとしない。
縋りついたまま泣きじゃくるヘデデトの姿は、もはや凶王と呼ばれた者とは思えなかった。
唖然としていたクヌムが我に返る。
「蠍王殿……私はアキラ殿の侍医をしているクヌムと申します。
アキラの状態ですが、これは蠍毒を原因とするものでは断じてございません。」
「それは本当かっ‼︎ 」
勢いよく立ち上がったヘデデトはいきなりクヌムに飛びついた。
縋るような目で見つめてくるヘデデトを見てクヌムは、真摯な態度で対応する。
「デンウェン殿に迎えに出て頂いた時にはまだ何もわかっていなかったので、解毒が必要な場合を考えてお呼びしたのですが……驚かせてしまいましたね。
申し訳ない事をしました。」
「では……今は何故こうなったかわかっているのだな?
治療は? 」
クヌムは何故か咳払いした。
「原因は……断片的にはわかっています。
治療は……ある人物の到着待ちです。」
「それは一体誰だ……? 」
そのときテラスから飛び込んで来たのは。
「アキラっ ‼︎ 」
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