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悪魔の恋情、死神の慕情 55
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時を同じくして中洲の鰐館に降り立とうとしていたのは、見事な設えの【鞍】を着けた専従の騎鳥……大鷲に騎乗したセテフだった。
厳しい顔つきのセテフは、他者が声をかけるのも躊躇うような雰囲気……一種緊張しきった、ピリピリとした怒りのオーラを漂わせている。
無理もない。
アキラとヘデデトの【婚姻】の詳しい報告を受け取ったのは昨日の事だ。
そして時を置かずしてのアキラの体調不良……勘繰るのも無理もない。
だが、その疑念もセベクによって知らされた真実によって払拭された。
……セテフは、ことと次第によってはヘデデトを叩き斬ってやろうと……本気で思っていたのだ。
「しかしヴァジェトが解毒に失敗するとは…… 」
「たまたま血が濃く生まれたのだろうと言っていた。
稀にいるのだと……特殊な毒を持つ者が現れる事があるらしい。
解毒はネフェルテムの到着待ちだ。」
アキラの身体の中に入った毒は、まるで水痘のウイルスのように体内に潜み、宿主の身体が弱った時に顔を出す、厄介な存在なのだ。
ネフェルテムの解毒で根絶出来るかどうかは神のみぞ知る。
「でもきっかけは……荒淫? 」
「クヌムはそう見ている……
悔やんでいたよ。
確かめておくべきだったと。」
「確かめるねぇ…… 」
セテフは、年嵩の巻角の獣人を思い浮かべた。
ヘデデトは、ぐでんぐでんに抱き潰した花嫁を渡されたらどんな顔をしただろうか?
軍務から戻ってきたアビスが部屋に飛び込んで来た。
そこで……ヘデデトと対峙する。
今の今しがたまで泣きじゃくっていたヘデデトから、一切の表情というものが抜け落ちる。
鋭い視線がアビスに向けられ、何かに気づいたかのように……ピクリと身体が震える。
「貴様…… 」
静かだが怒りを孕んだ、寒気さえ感じさせる……凶王の声。
アキラの横たわる褥からゆっくりと身を起こすと振り返りざま……尾が舞った。
「っ ‼︎ 」
一撃目を飛び退って避けると、背のナイフを抜いて次撃に備えるアビス。
ゆらゆらと尾を揺らして、ゆっくりと近づいてくるヘデデトは狂気に満ちた冷たい笑み……すら浮かべている。
……ヘデデトの行動には……訳があった。
あまり知られていない事だが、蠍人は意外と嗅覚が良い。
何もかも常人(常蠍人?)とはかけ離れているヘデデトは、アビスが部屋に入った一瞬で、彼から漂っている微かなアキラの薫り……に気がついた。
愛しい伴侶の、己が身に馴染んだ閨での馨しい薫り……
微かだとはいえ残り香を漂わせる、その意味とは?
「アキラに何をした? 」
地獄の幽鬼のようなおぞましい声色のヘデデトがナイフを抜く。
先ほど、アキラの枕辺に取り付いた時にきづいていた……
ただ、認めたくない……認めようとしなかっただけ。
アキラの身体からはさながらマーキングを施したように馬鹿犬の……アビスの臭いがプンプンしていた。
……昨日、自分が出立したのちにアキラはこの馬鹿犬に抱かれたのだ。
今回の発熱はそれが原因か⁈
怒号とナイフ同士が当たる甲高い打音。
セベクとセテフがアキラの寝所に入室した時、そこでは頭に血が昇った夫ふたりが、今まさに “ 殺し合い “を始めたところだった。
一瞬、唖然とするセベクとセテフ。
だが、次の瞬間。
「やめよ ‼︎ 二人とも! 」
ヘデデトがナイフを下ろして振り返ると、そこには恐ろしい顔をしたセテフが立っていた。
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