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彷徨うもの 4
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ヴァジェトとネフェルテムが退室した後も、アキラはセテフに抱きついたままぐすぐすと泣き続けていた。
「ラー…… 」
セテフの膝に乗せられて、背中を撫で摩られている。
椅子に座ったふたりの前に、ヘデデトが片膝をついた。
「アキラ、アキラ…… 我の方を見て? 」
そろそろと伸ばされた繊手を取って、ヘデデトがその甲に口づける。
アキラはセテフの胸に押しつけるようにしていた顔を、ゆっくりとヘデデトの方に向けた。
……目元が紅く腫れて痛々しい……
だがその面差しは閨での表情にも似通っていて……劣情を感じる夫も少なくない。
「アキラ……起きてしまった事はもう無い事には出来ないよね?
アキラがアヌビスでコブラ毒によって死にかけたのは紛れもない事実なんだよ? 」
「死にかけた……? 」
同時にそこまでの経緯を知らされていないアビスが立ち上がった。
「おい! それって…… 」
「アビス、話は後に。」
セテフにピシャリと遮られて渋々席に着くアビス。
「我は……ネフェルテムがあの程度で済んだのは僥倖だと思うよ? 」
「なんて事、言うの……? 」
震える唇からやっと紡ぎ出した言葉はヘデデトへの非難を含んでいる。
「我らはあなたの……アキラの夫だ。
アキラよりも大切なものなど無いのだよ?
そのあなたが命に関わるほど傷つけられたら……我は黙っちゃいない……
あの時、我が側に居たらネフェルテムを引き裂いていてもおかしくなかったと思う。
……ここにお揃いの御仁もそうじゃないかな?
ただ、先にヴァジェト殿が罰を与えていた……
その様子があまりに悲惨だったので、思い留まられた……そうでしょう? セテフ殿。」
「……然り。」
思わぬ肯定の言葉を聞いてアキラは耳を疑った。
「その時の現場は、誰も見ていないから正確なところはわからないけど、一番近くに居たネクベト殿が言うには、ネフェルテムがヴァジェト殿に襲いかかったそうだよ?
あんなチビでも己の “ 雌 ”を盗られまいと必死だったんだよ。
その気概は認めてやってね……
そして……もし……アキラが嫌でなかったら……醜くなったネフェルテムを……遠ざけないでやって欲しい…… 」
自分の事を重ねているのだろう、声が掠れ最後は言葉がとぎれがちになったヘデデトを見ていて、アキラの胸がキュウ……と痛む。
セテフの膝から素早く降りて、すぐ傍に蹲るヘデデトに抱きついて……アキラはまた泣いた。
今度はヘデデトとネフェルテムの為に、そして己の浅慮さに……。
「おまえの体調の事があるからネフェルテムは暫く中洲に逗留する。
だからいつでも会えるから……もう泣くな。」
セベクの無骨な指がアキラの髪をかき混ぜる。
縦抱きしているアキラの唇に己の唇を軽く触れさせた。
「本当? 」
「俺がアキラに嘘をついたことがあったか? 」
頭を振るアキラを抱く腕に力を籠めてセベクは歩みを早めた。
……彼らは今、鰐館に向かっている。
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