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彷徨うもの 7
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寝椅子に身を預けたアキラは、少し窶れた感があるが……美しかった。
袂の長い、アポピスの長衣に似た蒼色のカフタンに身を包みクッションに凭れている。
“ 僕はこの方の【男】になったんだ ”
ネフェルテムの胸は喜びでいっぱいになっていた。
たとえ、その代償に片眼を失ったとしても……悔いはない。
「ネフェルテム……こちらへ…… 」
アキラに誘われてその傍らに膝をつくとアキラの手を取る。
そして……優雅な仕草で指先に口づけるとアキラを見つめた。
「なんか……あれからひと月ほどしか経ってないのに……随分大きくなったね。
すっかりお兄さんになっちゃって……
どうしちゃったの? 」
前回の、アヌビスでのネフェルテムは10歳そこそこの少年だった。
だが今は美少女のような美貌は消え失せ、精悍な男性的な面差しに変わっている。
ティーンエイジャーの年代の危うい雰囲気は左眼の眼帯で相殺されていた。
「ネフェルテムは性的に “大人 ”になったのですよ。
我々は、本体は “ 蛇 ”です。
ヒトガタは移し身以外の何ものでもありません。
本体が “ 雄 ”として成熟したのですから移し身であるヒトガタも成長したのです。」
そう、ネフェルテムに代わって説明したヴァジェトはネクベトを伴って居間から退出して行った。
「女神さま……僕は本当に……女神さまに大変な事をしてしまって……
許されるとは思っていません。
でも……どうか僕を…… 」
“ 嫌わないで ” “ 厭わないで ”という心の叫びが聞こえて来るような……
そんな必死の形相で、ネフェルテムは縋りつく。
アキラはチラリとヘデデトの方を見た。
一瞬、交わされた視線ののちアキラは、レモンイエローの髪に指を潜らせる。
「そんな顔しないで……
ほら、今回もネフェルテムが来てくれたおかげで元気になれた。
だからネフェルテムが気に病む事はないんだよ?
でもこれからは……
噛まないでくれるとありがたいかなぁ? 」
笑顔を浮かべるアキラに向かって、ネフェルテムは何度も何度も頷いた。
「ネフェルテム、ごめんね…… 」
そう言ったアキラの手が眼帯に伸ばされる。
アキラの……微かに震える手が眼帯にかかる。
彼の心は揺れていた。
……ネフェルテムの、眼帯の下の傷を見る……それはアキラに課せられたひとつの通過儀礼のようなもの。
自分が原因で片眼を失ったネフェルテムに対して、これまで以上の愛情を注ぐ事を知らしめてやらねばならない。
そうしないとネフェルテムは荒んで行くだろう……ヘデデトのように。
ネフェルテムが、アキラの意図に気づいたときはもう、眼帯の結び目がほどかれていた後だった。
咄嗟に覆った掌に、自分よりかなり小さな手が重ねられた。
「見せて…… 」
力を籠めて押さえる掌を除けさせようとするアキラの手にも力が入る。
「見せて。」
渋々除けられた掌の下から現れたのは、それは無惨な傷だった。
辛うじて無事だった瞼が閉じられてはいるが、眉のあたりから瞼を通って頬骨の下まで、三本の爪痕が走っている。
瞼の下に眼球は無い。
激しく損傷した眼球は、最早使い物にならず摘出を余儀無くされた。
その傷に……今、アキラが触れている。
「触ったら……痛い? 」
「いいえ、もう大丈夫です。女神さま…… 」
思わぬ力で引き寄せられて、抱き締められる。
ネフェルテムは一瞬、アキラの腕の中で身を硬くした。
だがそれはほんの一刻の事で、強張りを解いたネフェルテムはされるがままに身をあずけていた。
そして、自らも厭うほどの醜い傷にアキラの唇が触れたとき、ネフェルテムのすべてはアキラのものとなる。
「早く大人になって僕の傍に来て…… 」
傷のあるすべての場所にアキラのバードキスが施されていく。
それだけでネフェルテムは天上への階を駆け上がりそうになった。
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