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彷徨うもの 9
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「女神さま、母上、失礼します。」
アキラの居室、寝所との境の扉の前で、ネフェルテムは一声かけてから中に入っていった。
ヴァジェトは丁度、水差しと杯の載った盆を捧げ持ち、卓の上に置こうとしている。
その卓は褥のすぐ側にあり、褥にはアキラとヘデデトの姿があった。
ネフェルテムは目を見張る。
薄布が幾重にも垂れ下がる、寝所の一番奥に褥は設えてある。
常には灯りが落されるその場所に、今はたくさんの燭台が煌々と灯されている。
そこでふたりは……
ヘデデトが片膝を立てて座っている、その股座にすっぽりと収まってヘデデトの胸に背を凭せ掛けているアキラ。
ヘデデトに後ろから抱きすくめられる形で一体何をしているのかというと……
アキラの膝に掛けられた寝具の上に、以前ヘデデトから贈られた絵巻物が乗っている。
ヘデデトが一つ一つの絵を指し示し説明をしているようだ。
ネフェルテムが訪れている事に気付かないのか、アキラはヘデデトに甘えたまま彼の優しい囁きに耳を傾けている。
……あのようなお顔は僕には見せて下さらない……
強烈な嫉妬心がネフェルテムを襲う。
蛇人の、己の “ 雌 ”に対する執着はかなり激烈だ。
まだまだ幼いネフェルテムにも、それは当てはまるわけで、いや幼いゆえに抑えが効かないというべきか。
遺された片眼でふたりを睨みつけるネフェルテムに気がついてヴァジェトは息子に声をかけた。
「ネフェルテム…… 」
ヴァジェトの声で我に返ったアキラは、バツの悪そうな笑みを浮かべて見せた。
しかし、ふたりの身体は離れない。
アキラの方も嫌がる素振りすら見せずそのまま抱かれている。
「ネフェルテム?
どうしたの? こっちへおいで。」
アキラの招きに応じて褥に近づくネフェルテムに、早くもヘデデトの牽制が始まっている。
大人げない……と言われそうだが、ヘデデトにも譲れない一線……というものがある。
アキラはヘデデトにとっても唯一無二の伴侶なのだ。
自然とヘデデトの腕がアキラの腰に回される。
「おやすみなさいの挨拶に参りました……
白蛇王様とセテフ様は? 」
確か、鰐王様の居間から女神さまをお連れしたのはあの方々だった筈。
一体何処に行かれたのかと首を捻っていたら、その答えはヴァジェトからもたらされた。
「あの御仁らは……あまりにもソノ気満々でいらっしゃるので、お引き取り願いました。」
通常、アキラの前では温和な表情の母が、珍しく顔を引き攣らせている。
漏れ聞いたところでは、セテフ様はこちらに到着した直後と昨夜、交合されたそうだ。
この上、まだ同衾しようというのか?
それに白蛇王……
かなり焦れていた筈だが。
「我がおりますゆえ、不届き者は追い返してみせましょう。」
ヘデデト様はそんなふうに仰るが、ご本人はどういうおつもりなのか?
いや、それよりもあの母がヘデデト様にこのような状態をお許しになっている意味がわからない。
「ヘデデト殿からは邪な気は感じられませぬ。
今宵はお任せしても、差し支えありますまいて。
ネフェルテム、ご挨拶なさい。
母と共に退出致しましょう。」
あわよくば……
との考えが無かったとはいわない。
だが、こうも無惨に追い払われるとは夢にも想わなかった。
「ネフェルテム、ここに。」
優しい声に誘われて、褥のすぐ側にまで足を運んだ。
ヘデデト様が怖い顔をしていらっしゃるが無視をする。
凭れていた身を起こして女神さまか、繊手を差し伸べて下さる。
そして。
「おやすみネフェルテム。
また明日ね。良い夢を。」
その言葉と共に下された口づけで左頬はいつまでも熱を孕んでいた。
憧れて、愛してやまない彼の方は今、最強の蠍に護られて眠りにつく。
いつの日か……あの場に居るのは自分なのだと己に言い聞かせて、蠍を一睨みすると
踵を返した。
「女神さまも良い夢を…… 」
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