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彷徨うもの 21
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鰐館の公的な棟に隣接した中庭に、次々と巨大な鷹や鷲が舞い降りてくる。
砂漠の蠍人の国の王と側近達が出立する時間が迫ってきていた。
王はまだ、天女の腰に手を回し離れ難そうに顔を寄せ合っている。
その様子を見ていた側近達は、微笑ましい光景に頬を緩めた。
勿論、微笑ましく感じない者たちもいる。
回廊の円柱の影に佇んで様子を伺っている3人。
射千玉のセテフと橡のアビスの叔父甥、そして白蛇王アポピス。
ジャッカルの叔父甥はともかく、アポピスが日中にこの様な形で姿を現すのは大変珍しい事だった。
そして常から怜悧な美貌を、さらに冷たく感じさせる笑みを浮かべてアキラを見ている。
その緋色の瞳にゾッとする光を宿して……
向きなおったアポピスが、僅かに低い位置にあるセテフの目を見て……凄みのある微笑を湛えて、言った。
「では日中は……アキラをお借りしますよ? よろしいですね? 」
「良いも悪いも無い。
我らはこれより駐屯地へ参るゆえ、夜半まで帰って来ん。」
セテフは苦虫を噛み潰している様な表情で……彼自体、他人の前でここまで露骨に表情を変えるのは大変珍しいのだが……最後はソッポを向いてしまった。
「それなら時間はたっぷりありますね……では、失礼します。」
チラリとアビスの方に眼差しを向けると、一瞬嘲るような……笑みとは言えないような、口角を僅かに上げただけの表情を見せて踵を返した。
衣擦れと髪を引き摺る音を残して、白蛇王がその場を後にして行く。
「叔父上…… 」
「随分ご立腹のようだな。
ラーは……我らが戻るまで無事で居るかどうか……? 」
背伸びをしたアキラが、ヘデデトの肩と頬に手を添えて顔を寄せてくる。
潤んだ目で見つめられて……堪らなくなったヘデデトが唇を重ねようとすると、首ごと引き寄せられて……口づけられた。
永い永い抱擁と接吻。
周りの事など気にならないのかふたりともがお互いを貪り合う……そんな口づけだった。
……アキラの腕がヘデデトの首に回されたとき、控えめな咳払いと共にケベフセヌエフの声が聞こえてきた。
「天女殿、夫君方が睨んでおられますよ。
いい加減離れられた方が良いと思います。」
ケベフセヌエフの忠告に頬を赤らめて腕をほどくアキラの唇に、最後にもう一度口づけたヘデデトは身をひるがえして大鷹の背の鞍上のひととなった。
……再び、見つめ合うふたり。
「ヘデデト……気をつけて…… 」
「アキラも…… 」
羽ばたきはじめた大鷹の、風圧から逃れるように後ろに下がると、フワリと浮き上がった大鷹は一気に高度を上げていった。
周りの側近達の乗った大鷹、大鷲達も次々と飛び立っていく。
ヘデデトの姿が見えなくなるまで見送って、溢れた涙を拭いながら屋内に戻ろうとしたとき、後ろからの強風に身体を持っていかれそうになる。
続いて羽音が聞こえて、一段と強い風に翻弄され……伸びてきた逞しい腕に腰を掬われて “ あっ ”と思った次の瞬間……
アキラはふたたびヘデデトの腕の中に居た。
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