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彷徨うもの 23
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アキラが身を躍らせた瞬間、かなりの高度で事の成り行きを見守っていたデンウェンが巨大化しながら、自由落下に加え羽からの推進力も得て急降下を始めた。
だが、かなりの高度を飛んでいたため、
『間に合わないかもしれないっ!』
と、アキラ達のいた場所が低高度過ぎるのを呪った。
突然身を躍らせたアキラに向かって差し伸べた手が空を切る。
「アキラーーっ!! 」
ヘデデトの絶叫と共に、大鷹の予告無しの自由落下が始まった。
だがもう少しのところの……距離が縮まらない。
アキラの落下に合わせて、上昇を止めた蛇身がジグザグにたわみ、それを足場として二頭の黒獣が駆け上がって来ていた。
飛翔するように、アキラの落下に正確に合わせて空を駆る黒獣。
「アビス! 私の背に乗れっ! 」
叔父の言わんとした事を正確に理解したアビスは、半獣化してアキラを受け止める体制に入った。
チャンスは一度きり。
アポピスが空中で巨大な塒を巻き、叔父甥の為の着地の足場と、もしもの場合……アビスが受け止め損なった場合の最後の手段、アキラが地面に叩きつけられるのを避けるため……の緩衝材となった。
大鷹の背から……ヘデデトの腕から身を離し、躍らせた空中で暫しの落下を愉しむ……すぐそばに迫っているアポピスに受け止めてもらうつもりだったアキラだが、慌てた声色の怒声を放つ彼の、恐怖と驚愕に見開かれた緋色の目と一瞬、見合ったとき今の彼には自分を受け止める術が無い事に気付いた。
と、同時にアビスのアキラを呼ぶ、緊張感と切迫感を孕んだ声が聞こえ……
半獣化したアビスの腕の中にすっぽりと収まった。
「ーーっ! 馬鹿野郎っ!! 」
息が出来ないほど強く、強く抱き締められて、アビスの愛情を痛いほど感じる。
そして、安堵と共に押し寄せてくる怒りを。
……すべての最悪の考えは杞憂に終わり、アキラは無事、アビスの腕に収まった。
興奮してはしゃいでいるアキラを尻目に治まりがつかないのはジャッカルの叔父甥とアポピス……
……特にアビスはアキラを抱き締めたまま震えていて……泣いていた。
「この、大馬鹿者が!! 」
眦を釣り上げ、こめかみに青筋を立ててその怒りを隠そうともしないセテフの様は珍しいを通り越して……ある意味奇跡だ。
持って行き様の無い怒りを抑えられずに、アキラの両の二の腕を掴んでガクガクと揺さぶるセテフ。
厳しい顔つきをしたアポピスと、今だ震えの収まらないアビスを前に、素早く屋内に場所を移したセテフは、恐怖のあまりびっしょりとかいた汗もそのままにアキラを責める。
普段なら、そのときの怒りそのままにアキラを抱いただろう。
気が治まるまで貪っただろう……
だが、今回は少し様子が違う。
もしもこのまま抱けば、アキラの身体を引き裂いてしまいかねない激情に支配されている。
己の愛しいものを守る為に無意識のストッパーが掛かり、襲いかからない代わりに、セテフの思考は偏った方向へと進んでいく。
セテフが思い浮かべたのは先日のアビスとの会話だった。
「叔父上……少し、ご相談があるのです。」
「何用か? 」
このとき、アビスはいつに無く緊張していて……しかしその瞳には断固とした光を宿していた。
「アキラの……アキラの事です。
俺はもう我慢出来ない! 」
「落ち着いて、初めから順に話しなさい。」
それからアビスはアキラとヘデデトの件を詳しく説明し、このままでは “ 奪られてしまう ”と憂慮した。
このときのセテフは笑って……いつになく熱くなっているアビスを落ち着かせて……下がらせた。
だが、セテフにもわかってしまった。
今現在の、アキラのヘデデトに対する傾倒具合を……
命をかけて庇おうとした意味を。
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