アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
彷徨うもの 52
-
仄かに乳香の薫る愛しいひとの頤を捉えて口づける。
伏せられた長い睫毛が微かに震えていた。
「女神さま…… 」
アキラが目を開けると、たったひとつ遺された黒い瞳が真摯に見つめている。
アキラはふたたび目を閉じてネフェルテムを待ち受けた。
……近づき、重なった唇は先ほどとはまるで違った動きをする。
僅かな隙間の歯列の間をネフェルテムの二股の舌が侵入してきた。
そして、そのままアキラの舌に絡みつき強く吸う。
長い舌の先端は……アキラの舌に幾重にも絡みながらも、上顎の性感帯を刺激した。
小さく喘いだアキラの、涙で潤んだ目がネフェルテムを見つめている。
腰を支えていた手がアキラの後頭部を優しく掴み、その代わり腰はどちらからともなく押しつけあっている。
逃げを打とうとする身体に逃れることを許さず、ひときわ激しく蹂躙したネフェルテムは銀糸を引きながら唇を離した。
「アキラ……女神さま…… 」
はにかむように俯いたアキラの頬を撫で、もう一度、少し腫れぼったくなった唇を啄ばんでから……アキラの身体を解放した。
ネフェルテムの視線はアキラの後ろに注がれている。
「……? ヘデデト⁈ 」
振り返ったアキラはそこにヘデデトの姿を見出した。
気配も感じさせず近づいてきていたヘデデトは少し怖い顔をしている。
そして、それとは別に突き刺さるような厳しい視線が。
「……アキラ、こちらへ 」
ヘデデトの背後から、アペデマクが睨みつけるようにアキラを見ていた。
食いしばった唇からは血が滲んでいる。
彼は、アキラとネフェルテムの遣り取りを見て、はっきりとした事情は窺い知れないが……衝撃を受けていた。
蠍王に介添えされた天女がすぐ目の前に佇んでいる。
23人の鬣犬たちは、ナイアーを除いて初めて天女を見た。
麗しい姿がそこにある……
まだ年若い天女にあわせてだろうか?
蠍王は常より随分若い姿をとっており、纏う雰囲気は柔らかい。
だが忘れてはいけないのだ。
気分ひとつで平気で自分たちを根絶やしにするだろう凶王の本質を。
最後の、ネフェルテムとの【接触】で上気した桃色の頬、艶やかな唇、熱に潤んだ瞳。
アキラは通常、獣人たちの目には少女と見紛うばかりに可憐に美しく映るが、今は……大輪の御華がほころびはじめたかのように香しい美しさに満ち満ちている。
初々しい艶やかさを醸し出して……
雄を魅了する。
華奢な身体に白い薄布を纏わりつかせるように身に着けて、素足のまま裳裾を引いて佇んでいる。
首を垂れた鬣犬の視界にはその素足が目に入るが、足指や爪の造作が装飾品のように美しい……
鬣犬。半獣である彼らの生活水準は今だ低い。
そんな彼らがはじめて見た貴人に、一瞬で心を捉えられてしまった。
特に二度目の邂逅を果たしたナイアーは、その胸を天女への恋慕で焦がしていた。
と、同時に先ほどからの遣り取り……
監視人によると天女の夫君は、三大夫や守護夫に代表されるいわゆる【夫】と【名目のみの夫】が存在するという。
白蛇王アポピスから始まって今のコブラの若君まで、その違いは一目瞭然だった。
各種族を代表する漢たちが群れつどうこの場で、その関心は天女ひとりに集約されている。
鬣犬たちには、このヘデデトの【招待】の意味が分かりかねていたのだが……
少なくともナイアーは、ヘデデトの意図が【牽制】であると気づいてしまっていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
220 / 1203