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彷徨うもの 58
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宴での席次は基本、無礼講であるが一応、奥まったところに上座が有り、そこにアキラをはじめその取り巻きと言うところの三大夫と守護夫が居り、後は車座に居住地が近いものから順に座っている。
スカラベのケプリと百足のセパの館は、クシュの街外れの太古からの森、巨大森林の中にあった。
万事が身が軽いのを好む蟲の二人は、今もまた一緒に居て、最低限の従者一人づつを連れている。
派手な色彩を放つ二人に気がついて、アキラが近づいて来た。
「こんばんは。お二方…… 」
“ ここ、座っていい? ”
そう言って床に直に座ろうとするアキラにセパが言う。
「床に……など、座らず……に……私の……膝に……座っ……て、下さい……ま……せん……か? 」
「いいの⁈ 」
目を輝かせたアキラは躊躇無くセパの膝に収まる。
燭台の柔らかな光に照らされた二人の姿は、その光を反射させて、アキラのようなマニアを魅了するほど……美しい。
「天女……殿 」
“ あたたかい…… ”
それとなく華奢な身体に腕を回して、百足の王はうっとりとする。
己の森林に自生する乳香の薫りに、言いようも無く煽られてしまう。
自然と密着が大きくなって抱き込んでしまった。
「アキラ……殿 」
『セパ、鰐王らが……
特に凶王が睨んでいる。
天女殿に危害が及ぶかもしれぬ。
いい加減にしておけ 』
蟲の言葉で囁いたケプリに、セパが頷く。
「そうそう、アキラ殿に土産を持参している件、お話しましたね? 」
ケプリが従者から籠を受け取った。
細かく編まれていて中を伺う事は出来ないがカサカサと音がしていて、何かが居る事がわかる。
「私の森でも珍しいものですよ。
アキラ殿のお心を慰める、よい友になると思います」
本当は、この中の蟲と入れ替われるものなら何を犠牲にしてもよい……と思う。
アキラには中のものが蟲だとわかったのだろう。
目を輝かせて蓋が開かれるのを今か今かと心待ちにしている。
その様子に “ まるで子供のようだ ”と微笑みながら蓋を開けた。
“ ブン ”という羽音と共に飛び出して来たものがケプリの大きな掌に留まる。
それは30cm近くある、美しい色彩を纏った蟷螂だった。
「ニセハナマオウカマキリ……
彼は他のものと闘って、あなたの傍に侍る権利を勝ち取った、私の眷属です。
人化は相成りませんが人語は解しますのでよろしければ話し掛けてやって下さい 」
アキラはケプリの話を一体どの辺りまで聞いていただろうか?
……一目見て、夢中になってしまった、この美しい蟷螂。
イエローグリーンとホワイト、そしてブラウンの迷彩色をした精悍な面構えの、文字通り【魔王】の名に相応しい気高さを兼ね備えた蟷螂……
「ありがとう! ありがとうございます!
僕、大切にします。
本当にありがとう!! 」
セパの膝から立ったアキラが、目の前のケプリに飛びついたのは……一瞬の出来事だった。
「おっ……と…… 」
受け止めた身体は、小さく……華奢で……よい薫りがする。
「気に入って下さったようで……よかった。
こういうものがお好きと聞き及んでおりましたが、物がものだけに危惧しておりました。
最後まで、花を模したハナカマキリとどちらにするか悩んだのですよ 」
そのとき、可愛い激突の衝撃に巻き込まれないよう飛び立っていた蟷螂が、白茶の羽を震わせながらアキラの肩に留まった。
“ よろしく ”と言っているかのように覗き込んでくる蟷螂は、アキラのかけがえのない友になった。
『今度は蟷螂か…… 』
鰐王の溜め息が溢れ、愚痴が口をつく。
「もう、あれは……一種の病気だな 」
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