アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
彷徨うもの 88
-
『……奪えばよいのです』
『欲しければ、奪えばよいのです……』
まるで暗示をかけられたように、頭の中で渦巻く言葉。
長毛の鬣犬とナウアーが我に返ったとき、宴は終わりアキラをはじめすべての夫君たちは引き揚げた後だった。
鬣犬の従者が招き入れられ、主の覚醒を待ち……そのまま渡しの船に乗り対岸の宿に着いてはじめて長毛の鬣犬は自分のしたことに震撼した。
実はナウアーの方は夢うつつでさほどはっきりとは覚えていない。
だが長毛の鬣犬は、媚薬の効き方が違ったのかかなりの部分を覚えていた。
うっとりとするような天女との交わりのひととき……
確かに自分は天女とまぐわったのだと、彼の方のなかに子種を植えつけたのだと悦びが湧き上がり、甘美なその身体を思い出してふたたび魔羅を硬くした。
彼の方の手脚が絡まり、卑しい自分を求めてくださる声が蘇る。
可愛らしいお強請りの言葉……
そして、決して叶わぬ『ちゅーして』と口づけを求めて下さる彼の方の愛らしい事。
自分の……獣形の裂けた口蓋では、口づけることが出来なくてペロペロと舐めることしか出来なかった口惜しさ。
このときはじめて自分がヒトガタになれない事を悔いた。
そしてこれ以降 “ ヒトガタ ”になりたい。
彼の方に相応しい雄になりたいと切に望むようになる……
普段の優しい笑顔。
まぐわいの場での艶やかな姿。
柔らかな肌……
私の魔羅を包み込んで締めつけ、搾り取った蜜壺。
感じて、仰け反る肢体。
求めて、強請りの言葉を紡いだ唇……
一度、味わってしまったものは、忘れられない。
手に入れてしまったものは手放せない。
まだ夜が明けきらぬ暗闇の中、自分の意識が冴えていくのを感じる。
と、同時に渦巻く想いを持て余していると、昨日の女の声がまた聞こえてきた。
『もうし……鬣犬様……もうし……』
今、自分は宿の部屋に居るはずなのに、どこからか声が聞こえてくる。
『もうし…… お帰りなさいませ。
首尾はいかがでしたか……?』
「何故……その様な事を……」
『天女様の乳香のかぐわしい薫りが……』
鬣犬はアキラの肌の香りを思い出して、鈴口から先走りを溢れさせた。
恋しくて……恋しくて堪らない……
口蓋の縁から涎を零しながら、窓から身を乗り出して中洲の方を見つめる。
そんな鬣犬に謎の女は畳み掛けた。
『天女様も憎からず思っておられるご様子……』
『奪えばよいのです……
欲しければ、奪えばよいのです……』
女のそそのかしの言葉がストンと心のなかに堕ちてくる。
「欲しい……」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
256 / 1203