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愛しいひと 2
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「半……狂乱?」
聞きなれぬ言葉に耳を疑う。
山犬王がそれほど取り乱すほどアキラの容態は悪いのか?
「トート、こちらに……」
セベクに誘われて隣室の居間に移る。
勧められて椅子に腰掛けると、溜息をついたセベクが続いた。
「俺らは……二夜にわたって【太古の婚姻】を行っていた……」
セベクがぽつりぽつりと話しはじめる。
「まず、俺とクヌムが話し合ってアキラに媚薬を使うことにした」
「媚薬?」
「鱗持ちの俺らにはあまり効果の無い、仔を孕む種族が使う薬だそうだ。
クヌムが加減してアキラに飲ませた」
「セベク……あんた……」
毛先が黒いトートの髪が怒りのあまりざわめいていた。
頭半分以上背の高いセベクの首元を掴んで締め上げるトート。
対して、反抗せずにされるがままになっているセベクはただトートを見下ろしている。
「お待ち下さい。 トート殿」
沈痛な表情を隠せないクヌムがトートの肩に手を置いた。
「私からアキラ殿の現在の容態を説明致します。どうかお掛け下さい」
「私は始め……懐妊を疑いました」
「ああ……?」
「少し前にアポピス殿が卵を移して種つけされた話を聞き及んでおりましたので……
でも違いました」
トートにとってはこの話すら青天の霹靂だ。
「勿論、媚薬の副作用とか……
そんなものでもありません。
……そして、最悪の事態を想像しました」
クヌムの顔を見つめるトートの喉がゴクリと鳴る。
「セテフ様がお出でになったのはこの頃です……
とにかく悲観的な想像しか出来なくて……
私は……アキラ殿の身体は激しすぎる性交で……腸壁を突き破られたのでは無いかと思ったのです」
「まさか!!」
「勿論違います。
もしそうならアキラ殿はもう……今頃はお亡くなりになっていたでしょう」
「!!!」
立ち上がったトートが一気に卓をひっくり返した。
優しげな外見に似合わず気性の激しいトートの手指の爪が掌に食い込む。
「卓一つで済んでよかったですね、鰐王。
セテフ様のときは公的な客間が全壊……
死者が出なかっただけが幸いでした。
半獣化して暴走される様は凄まじい……
戦神とは恐ろしい方ですね」
一つの種族すべてを滅ぼした戦神の片鱗を垣間見たような……そんな気がして、トートは首の後ろ側の毛を逆立てた。
「アキラ殿の容態に話を戻しましょう。
……念入りに診察致しました。
腸壁に裂傷等、傷はありません。
出血は全くありませんから。
……まだ意識のある時に色々な体位をとって頂いて、その時に気付いたのですが……」
一呼吸置いて言葉を続ける。
「腑の位置が……元に戻りきっていない……と、言うか……」
また、眩暈がする。
今度は吐き気まで伴っていて、頭が現実を認めるのを拒否している。
「今は、お休みして頂いて経過観察しております。
腹の中で出血しているかもしれませんし、腑自体は傷ついておりませんが腑を包んでいる膜が剥がれた可能性が高いので、暫くは絶対安静です」
“ 水すらも受け付けず吐き戻す ”
このままでは衰弱の一途を辿り、アキラは……
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