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愛しいひと… 5
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そのとき、その場に駆け込んで来たのは、亀長夫人ターメラ。
「クヌム殿っ! アキラ様が急に意識を失ってっ!!」
その場にいる皆の動きが一瞬止まる。
ここで、思いの外素早かったのはクヌムの動きだった。
年嵩で、機敏なイメージの薄いクヌムだったが脱兎の如く駆けだした。
その後を、アキラの寝所に向かおうとするセテフと、それを取り巻く一団。
セベクはセテフを牽制しながらクヌムを追った。
「アキラっ! アキラーーっ!!」
泣きじゃくり、名を呼んで叫ぶヘデデトの手が横たわるアキラに抱き締めるように巻きついている。
そのアキラを揺さぶってみても、座らない首が仰け反ってガクガクと揺れるだけ……
「ヘデデト殿。動かさないで下さい」
到着したクヌムが荒い息をつきながら近づいてくる。
すぐにアキラに取り付いたクヌムが下腹に触れ、耳をつけて音を聞いていた。
そのとき。
騒々しさが近づいてきて閉められていた扉が破られる。
轟音とともに現れたセテフの周りには、アビスをはじめ押し留めようとするアヌビス兵が取り囲んでいる。
血走った目が向いているのは、褥に横たわる “ 愛しいひと ”のもと……
血塗られた爪が差し伸ばされるのも然り。
アキラを求めて一歩、また一歩と歩み出す。
「!!」
セテフの意図に気づいたヘデデトがクヌムを護るように立つと、同時にアポピスが並んだ。
そしてほぼ同じタイミングで、アポピスは下半身を蛇体化させてセテフに巻きつき、ヘデデトは正面から抱きつくようにして押し留めようとする。
後ろからはアビスが、セテフの首に腕を回して拘束し、止めようとしているのだが恐るべきはセテフの剛力さ。
3人の超一流の武人の腕力を持ってしても、少しずつ少しずつ前進していくセテフ。
その差し伸べられた右手は、只々アキラを求め、曲げ伸ばしされる指からは血が滴っている。
「ラー…… ラー……っ……」
血でも吐くのでは無いかと思われるほど苦しげな呻きとともに、絞り出されるのはただひとりの名前。
アキラを求めて歩みを進め、あともう少しでその身体に手が届く……
一際大きな咆哮の後、振りかぶった右手が振り下ろされる前にセベクが跳躍し、横たわるアキラの傍に降り立つと素早くその身体を抱き寄せた。
ほぼ同時にセテフの手が、アキラの居た場所の上掛けを掴み、敷布ごと引きちぎっていく。
布の裂ける嫌な音とともにセテフの体躯が後ろに引き戻されていった。
「叔父上!」
セテフの首の後ろの急所に、アビスの手刀が叩き込まれて漸くセテフの動きが止まった。
素早く身を引くアポピスとヘデデト。
ひとり残されたアビスが昏倒したセテフを、アヌビス兵の手を借りて運んでいく……
アキラを抱いたまま、セベクは想いを巡らす……。
“ アキラを喪うかもしれないなどと、考えたくも無い……
だが、もしもその様な事になってはたして俺は正気を保って居られるのだろうか?
いや……いっそ、狂いたい…… ”
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