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「おはよう」
「わっ、王子…結城く…っ、お、おはよ」
「結城くん、お、お、おはよ…」
朝の挨拶くらいまともに返せ。
昇降口で上履きを履き替えていた二人のクラスメイトに挨拶をしたが、男のくせに真っ赤になってあっという間に教室へ行ってしまった。
さっきまでお前ら楽しそうにぎゃーぎゃー話してただろ。
微妙な気持ちになりつつ下駄箱をあければ、バラバラと差し入れの数々が落ちてきた。
落ちるほど詰め込むんじゃねえ。
イラッとしながら上履きを出そうとしたが、上履きが見当たらない。
代わりに『ごめんなさい』というメモと一緒に金が置いてあった。
どっかの変態が俺の上履きを買っていったらしい。
思わずガンッとロッカーを殴る。
周りがビクッとしたが、それでもイケメンは大抵何をしても許される。
数人の女子に猫撫で声で手の心配をされた。
こんなのは日常茶飯事で、事務室へ行けば事務員のおばちゃんも慣れたようにニコニコとスリッパを貸してくれる。
普通だったらイジメにあってると思われてもおかしくないはずだが、俺の容姿でそれはないと勝手に判断しているらしい。
どいつもこいつもと朝からむしゃくしゃするが、それでも今日の俺は少しばかり気の持ちようが違う。
なぜなら、もしかしたら。
ようやくまともに俺の目を見て挨拶を返してくれる奴がいるかもしれないからだ。
スリッパに履き替えて教室へ向かう。
俺の席は名前順で窓際の一番後ろの席だから、いつもは後方の入口から入る。
だが今日はわざわざ前方の入り口から入った。
なぜなら俺の席と対角になる、廊下側の一番前の席。
そこは昨日始めて会話をした、あの無愛想な野球部男。
有坂の席だからだ。
ちょうど朝練が終わって教室へ戻ってきたところらしく、スポーツバックを机に降ろしている姿を見つけた。
「おはよ」
教室に足を踏み入れて、何気なくそう声を掛ける。
内心ドキドキしている。
コイツでダメならもうダメかもしれない。
有坂は気付いたようにちらっと俺を見てから「おはよう」と何事もなかったようにそう言った。
特段照れるでもなく、狼狽えるでもなく、極々普通の対応。
はい、来た。
これは絶対にきた。
有坂の対応に俺は確信する。
俺の悩みその2。
俺には友達がいない。
一言でいえばぼっちだ。
なにもいじめられているわけじゃない。
ものすごくちやほやされてはいる。
いるが、そんなのは友達じゃない。
普通に話をしようとしてもみんな無駄に俺を持ち上げるし、そもそも目が合わない。
有坂のようにあんなガッツリ人の目を覗き込んできた奴なんてそういない。
それに俺が有坂に目をつけたのは、そもそもアイツが俺のことを知らなかったからだ。
これだけ周りに興味が無いやつなら、間違いなく俺に対しても過剰な気の遣い方なんてしないだろう。
確かな手応えを感じながら自分の席へと行く。
相変わらず人の顔を見ないでモジモジと挨拶してくる奴らにテキトーに返してから、自分の席から一番遠いその場所へと視線を向けた。
ちらちらと俺への視線を感じる中、有坂は特にさっきの挨拶なんて気にした様子もなく淡々と授業準備をしている。
高校に入って、気付けば二年目の夏が来ようとしている。
去年どころか中学時代もまともに話せる奴がいなかったが、今年こそは友達が出来るかもしれない。
これで体育の時間二人組作れ、だとか適当に班になれ、とかいう拷問行為に困らなくて済む。
とりあえず昼休みになったら一緒に飯を食わないかと誘ってみよう。
いや、さすがにいきなり飯はハードル高いか。
それでも友人を作りたいなら、自分から歩み寄らないと始まらない。
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