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「もう学食は嫌だ」
翌日の昼休み、有坂の机の前で開口一番にそう言う。
有坂は一度じっと俺を見つめてから、口を開いた。
「飯が不味かったか」
「そうじゃねーよ。だってお前話しかけられまくるじゃん」
「何か問題があるのか」
「大アリだっ」
そう言ったら有坂はもう何度目かの理解出来ないという顔をした。
昨日は外野がうるさくて結局全然話せなかった。
俺と同じでぼっちだと思ってたのに、コイツ無愛想なくせに意外と交友関係が広い。
見た目怖そうだし敬遠されがちなのかと思えば、むしろそれが知る人ぞ知る駆け込み寺、みたいな感じで男女問わずひっそり頼りにされていた。
友達いっぱいかよ。
「なら教室でいいか」
「嫌だ。お前と二人がいい」
ただでさえコイツすぐ飯食い終わるのに、誰にも邪魔されたくない。
はっきりとそう言ったら、少し面食らった顔をされた。
それから考えるように有坂は首を擦る。
「…分かった。なら購買に行ってくるから少し待っていろ」
「えっ、購買?」
これまた行ったことのない場所だ。
待ってろとは言われたが、席を立った有坂にひょこひょことついていく。
またしてもなんでついてくるんだ、みたいな目で見られたが俺は購買デビューだってまだなんだ。
この機会に是非とも行ってみたい。
「なあ有坂、購買の限定揚げクリームパンって知ってるか?数量限定らしいぞ。まだあるかな」
「そういうのはすぐに走らないと買えない。もうないだろう」
「ないかなー。あったらお前と一緒に食いたいんだけどな」
友人と一緒に美味いもの分かち合いながら食うとか、絶対楽しい。
もし一個しかなかったら半分個してもいいし。
想像を膨らませつつ上機嫌で歩いていたら、何か物言いたげな有坂の視線とぶつかった。
「なんだよ?」
「…いや、今日も嬉しそうだな」
「おー、すげー楽しい。有坂といるからだな」
素直に笑顔でそう返す。
友達と一緒にいるのがこんなに楽しいと思わなかった。
本当に俺はずっと、ずっと一人ぼっちだったんだ。
購買は食堂のすぐ隣にあって、たどり着いたそこはすでに人でごった返していた。
今日も弁当を持たされてるから買いはしないが、並べられたパンや弁当を興味津々で眺める。
目的の揚げクリームパンが完売になってしまっているのは残念だ。
見ている間にさっさと弁当を買い終えたらしい有坂が戻ってくる。
すぐに声を掛けようとしたが、ふと有坂の視線がとある人混みの一角に向いた。
見れば昨日話していた野球部の主将がいて、どうやら購買に来ていたらしい。
有坂が自然と俺ではなくイカツイ坊主頭の方へ足を向けたから、慌てて有坂に駆け寄る。
「ちょっと待て。どこ行くんだよ」
思わずガシッと有坂の腕を掴む。
今日は俺と一緒に二人で飯食うんじゃないのかよ。
見上げた有坂の顔は相変わらず仏頂面だが、この無愛想さで隠れた人気者だから困る。
ここで他の奴らと話したりなんかしたら、また俺との時間がなくなる。
昨日は我慢したんだから、今日は絶対に譲れない。
絶対に行くなという意思表示を込めて掴む手に力を込めると、有坂は主将から俺へと視線を移した。
安定の射殺しそうな目つきに見下ろされたが、離せと言われようが離す気なんてない。
何を言われるのかと身構えたが、それは少しの間の後。
不意にクスリと小さく漏れた息が落ちてきた。
え、今コイツ笑った?
珍しいってか、初めて見たぞ。
「二人で食いたいと言っていただろう。結城を部室に入れていいか、主将の許可を取ってくるだけだ。すぐに戻る」
そう言ってぽんと優しく頭を叩かれた。
ほんの一瞬の触れ合いだが、遅れて気づいてぶわっと気持ちが込み上げる。
うわ、俺今友人に小突かれた。
おまけに何が面白かったのかは分からないが、一瞬笑いも取れた。
嬉しくなって掴んでいた手を離すと、有坂は主将の所へ歩いて行った。
少し話をして、宣言通りすぐに戻ってくる。
どうやらちゃんと許可は降りたらしい。
まあこの俺に許可を出さないモブがいるわけないが、有坂は几帳面なやつだから仕方ない。
そんなわけで俺達は二人並んで部室へ足を向ける。
今日は初スキンシップもあったし、それにやっと有坂と話せる時間も取れた。
着実に仲良くなっていることが、今は嬉しくて仕方なかった。
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