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「マッスー、テストどうだった?」
数日間のテスト期間を終える。
放課後、へらっとした笑顔で俺の前に現れたのはハルヤンだった。
ちなみに有坂はさっさと部活に行ってしまった。
テスト終わったばっかなのにもう部活かよ。
「どうもこうもいつも通りだよ。つかその呼び方やめろ」
「じゃあ童貞王子にする?」
「殴っていいか」
俺の返しにハルヤンは顔の横で両手をあげてみせる。
こんなやり取りをしているが、その実内心で俺は感動していたりする。
めちゃくちゃ友達らしいやり取りだろこれ。
「ところで暇だったら飯食って帰らない?ちょうどバイト代入るから奢ってあげるよ」
「え」
「友達記念ってことで。あ、駅前のファーストフード程度だけど」
ハルヤンはそう言ってニッと笑顔を作ってみせる。
別に金には困ってないから奢りじゃなくてもいいが、友達記念という言葉にはめちゃくちゃ惹かれる。
それにちょうど俺もハルヤンに聞きたいことがあった。
「いいよ」
「やった。じゃあ鞄取ってくるからちょい待ってて」
そう言ってハルヤンは自分のクラスへ戻っていった。
その後ろ姿を見送りながら、じーんと胸が熱くなる。
学校帰りに友人と飯食いながら、グダグダどうでもいい雑談をしつつバカ笑いをする。
誰もが当たり前にやっていることなんだろうが、俺にとってはずっと憧れ続けてきたものだ。
ハルヤンを待つ間に自分も鞄を取りに行き、ふと窓からグラウンドを見下ろす。
野球部が練習をしている光景が見えて、そこに有坂の姿を見つけた。
小気味良い金属音と共にボールが打ち上がり、有坂がかざしたグローブにそれが吸い込まれていく。
チームメイトから掛かる賑やかな声。
その中に数学教師の姿も見つけたが、アイツ野球部の顧問だったのか。
素直に羨ましいと思う。
俺ももっと有坂と一緒の時間を過ごしたい。
テスト期間中は昼休みもなかったし、ここ最近まともに話をしていない。
この間俺のために時間を作ってくれるって言ったの、忘れてんじゃねーだろうな。
「恋する乙女かな?」
じっと有坂の姿を目で追いかけていたら、いつの間にか隣にいたらしいハルヤンにツッコまれた。
俺をホモキャラにすんな。
「違う。行こーぜ」
「はいはい、お供させて下さい王子」
またしても茶化すような言い方をされたが、ハルヤンという友達がもう一人増えてくれた事は素直に嬉しい。
ハルヤンともたくさん話をして、もっと仲良くなりたいと思う。
「なあ、有坂の彼女って知ってる?」
ファーストフード店について、適当に注文して窓際の席に二人並んで座る。
ハルヤンは俺の質問に少し考えるように視線を持ち上げた。
「あー、あの子かな。最近は分からないけど去年よく一緒に帰ってたの見たな」
「マジかよ。誰?可愛い?」
思うままに聞いたら、フッとハルヤンに笑われた。
「大丈夫。マッスーの方が100倍可愛いよ」
「そんなことは分かってんだよ。真面目に答えろ」
「清々しいくらい自分の見た目分かってんね」
小さい頃から可愛いだのなんだの散々言われ慣れてる身としては、今更そんな言葉では動じない。
じとっと目を細めると、ハルヤンは頬杖をついて俺を見つめた。
「そういうのは有坂に聞いたらいいんじゃないの」
「なんか…聞きづらい」
「完全に乙女じゃん」
だから違うっつの。
それから俺達はたくさん話をした。
好きな漫画とかゲームとかテレビの話、ちょっとエッチな話題まで、ハルヤンは有坂とは違って話題が豊富だった。
それに話してみればわりと趣味も合って、気付けば俺は夢中で会話をしていた。
窓越しに見える夕日が落ち始めてきたことに気付かない程度にははしゃいでいて、楽しくて堪らなかった。
ずっと、ずっとこの時間が続けばいいのに、とすら思えた。
――が。
それは突然訪れた。
「あ、きたきた。もー遅いっすよ」
不意にハルヤンが手を上げる。
つられて顔を上げれば、見たことのない大人が数人こっちに来ていた。
何かと思えば俺の前に来て、挨拶と共に名刺を差し出される。
ポカンとしたままそれを受け取って見れば、芸能プロダクションの名刺だった。
ハッとしてハルヤンに顔を向ける。
「おい、ハルヤン。これ――」
「じゃ、約束通り紹介料振り込んどいてくださいね。いやー、マッスーが案外素直で助かったわ」
そう言ってサクッと鞄を持って席を立ち上がる。
ちょっと待て。
慌ててハルヤンを呼び止める。
「お、おいっ。どういうことだよ」
「え?今月金なくてピンチだったんだわ。俺ちょっとそっち方向にツテがあってさー。マッスー紹介すればお小遣いくれるって言うから」
特に気にした様子もなくハルヤンは言ってのける。
今日バイト代入るとか言ってたが、もしかしてこれのことかよ。
ふざけんな。
今更ながら有坂が言った忠告が頭の中に蘇ってきた。
「ああ、そんな心配しなくて大丈夫。大手のプロダクションだから礼儀はあるし。俺のためにちょっとくらい話聞いてやって」
「お、お前のためにって…」
「だって俺達友達だろ?」
そう言って屈託のない笑顔でニコッと笑ったハルヤンに愕然とする。
最悪だ。
これは間違いない。
――友人詐欺にあった。
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