アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
19
-
「おはよー、マッスー。デビュー決まった?」
それは至極爽やかな朝の登校時間。
どの面下げて声を掛けて来たのかと思えば、全く悪気のない顔でニコニコとハルヤンは現れた。
下駄箱で靴を履き替えていたが、まるで親しい友人に声を掛けるレベルの軽やかさだ。
「おいテメエ。よく俺に話しかけられたな」
「あれ、やっぱり怒ってる?」
「当たり前だろ。もう二度と話しかけてくんな」
「えー、そんな事言わないでよ。メシ奢ったじゃん」
「それ俺で稼いだ金だろ」
じとっと睨みながら言うと、ハルヤンはテヘッとウインクしてみせる。
この野郎。
初めて人に殺意がわいた。
「まーでもほら、俺も昨日の夜王子の騎士様にめちゃくちゃ怒られたんだよね」
「…は?」
一瞬誰のことか分からなかったが、不意にハルヤンが指を差す。
その先を見ると、有坂がグラウンド整備しているのが見えた。
朝練が終わったところなんだろう。
有坂の姿に一気にテンションが跳ね上がったが、ふと昨夜のことを思い出す。
昨日は有坂とたくさん話をしながら家まで送ってもらって、すげー楽しかった。
これが友人なんだなって心の底から実感した。
そう、実感しまくったのはいい事なんだが――。
「ありちゃん怒らなくても怖い顔してるのに、怒ったらマジで怖すぎでしょ。だからこーして俺は反省して朝からマッスーに謝りにきたわけで…あれ?」
不意にハルヤンの言葉が途切れる。
有坂から視線を戻すと、どこかニヤけた顔のハルヤンと目があった。
なんだそのムカつく顔は。
「ありちゃんとなんかあった?」
「は?なんで有坂なんだよ」
「だってマッスー有坂しか友達いないじゃん」
その通りだがなんでバレた。
そういやコイツ俺が屋上でぼっち飯してたの知ってるんだっけ。
「いつも有坂の話したら大喜びで尻尾振って食いついてくるのにさ、なんか今難しい顔してたから」
「人を有坂の犬扱いすんな。アイツはお前と違って俺の大事な友達なんだよ」
「大事な友達、ねえ」
そう言ってハルヤンはクク、と喉奥で笑う。
この友人詐欺師が。
一瞬でもハルヤンと友達になったことをはしゃいだ過去の自分を全力でぶん殴りたい。
「まーまー、お詫びといっちゃなんだけどさ、飯奢るよ。今日暇?」
「お前絶対懲りてないだろ」
教室までの廊下を歩きながら、付いてくるハルヤンをジト目であしらう。
コイツだけは絶対に信用ならん。
それに俺は昨日心に決めたんだ。
有坂だけがいればいい。
有坂がそばに居てさえくれれば、他に友人なんていらない。
が、それを思い出したら同時に昨夜の疑問が蘇ってくる。
ふと足を止めた。
「…そーいやさ、友達同士ってハグしたりするか?」
「え、なにいきなり」
友人詐欺師に何を聞いているんだとは思うが、コイツは良くも悪くも交友関係が広そうだ。
ハルヤンは少し首を傾けてから口を開いた。
「別に付き合ってなくてもハグもキスもエッチもする時はするけど」
「うわっ、お前最低!詐欺師!」
「いやさすがにそこは同意でしょ。つかそこに詐欺師関係ないし…」
言いながらハルヤンは何かに思い至ったように「あ」と声をあげた。
一体なんだ。
「ああ、もしかして男の方?どんなノリで抱きしめられたんだ?」
「どんなノリって何」
「ほら、感動の再会とか、試合で勝ったとか、外人だったら挨拶代わりだしさ」
「いや…そういうんじゃねーな。でも感動と言われてみれば、もしかしたら俺の言葉に感銘を受けたのかもしれない」
「んー?ちょっと何言ってるか分かんないから再現してよ」
そう言われて昨日のことを思い出す。
有坂にどうやって抱きしめられたんだっけ。
「こうさ、まず髪に手が回ったんだよな」
「うんうん」
「そんでこうぐわって来たら、腰にもう片方の手が当たってそのままギュッと…」
「――おい、何をしている」
突然の低音ボイスにドキリと心臓が跳ねる。
ハルヤンを俺と見立てて昨夜の再現VTRをしているところだったが、不意に後ろから有坂の声がした。
振り返ろうとしたが、その前にハルヤンにポンと頭を叩かれる。
「いやーもう朝からマッスー積極的だなー。じゃあ仲直りも出来たってことでまたね。ありちゃんもこれ以上俺にプリプリしないよーに」
ムカつくまでに茶目っ気たっぷりにそう言うと、ハルヤンはサクッと自分の教室へ入っていった。
アイツ有坂が来てるの分かって俺にやらせたな。
振り返るとめちゃくちゃ物言いたげな顔で有坂が俺を見つめていたが、今の説明は一体どうすればいいんだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
21 / 275